指で触って楽しむ「江戸のインターネット」浮世絵

【Interview】新藤茂先生「浮世絵随談」@神奈川大学公開講座

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――なるほど。いろいろなことを「忖度(そんたく)」した結果の絵なんですね! 浮世絵師のジャーナリズムみたいなものを感じますね。

そうです。まさにジャーナリズムです。1枚の浮世絵のなかには、たくさんの情報が詰まっているので、これが全国に発信されることで、当時の世の中に影響をたくさん与えるわけです。だからこそ、幕府も慎重にならざるを得なかったし、逆にいえば、それだけ浮世絵が庶民に支持されていたともいえますね。

詰め込まれた情報を遊びで読み解く

――ここまで、本当に貴重な絵をたくさん見せていただいてありがとうございました。最後に、先生が考える浮世絵の魅力についてお聞かせください。

僕自身が浮世絵に興味を持ったのは小学校3年生のときですね。ちょうど当時、小学生の間で切手の収集が流行ってたんですが、最初に買った切手が写楽の市川鰕蔵の切手だったんですよ。それ以来、歌舞伎も落語も、江戸文化が大好きになってしまって。江戸の文化は「遊び」の要素が多いんですよね。あの感覚がなんともいえずに好きなんです。

それから、浮世絵は、ただその場にあったものを写し取るわけではなくて、当時の時代背景や風俗、文化がデータとして絵になっているのもおもしろいですよね。ただの写真とは違う。作者の意図や当時の流行などの情報がたくさん詰め込まれていて、その中からデータを読み解くおもしろさがありますよね。

――現代で言うと、浮世絵はどんなものに近いんでしょうか。

一番近いのはインターネットですよね。最も庶民にとって身近な情報ソースでしたから。1枚の絵のなかに、いろんな情報が入っている。「こういう建物があるんだ」「こういう出来事があったんだ」と、当時の人たちは浮世絵を通じて、他の文化や情報を読み解いてきたわけですから。 僕が一番浮世絵のおもしろさを感じるのはそこなんです。浮世絵を通じて、江戸時代の人々の「遊び」を体験できるところなんです。

――といいますと?

浮世絵っていうのは、江戸時代の普通の男の子と女の子の娯楽だったんですよ。本来は、浮世絵は、勉強して理解するようなものではない。だって、当時の人は勉強しなくても、楽しみ方がわかっていたわけだから。でも、現代人にはわからない。だから、当時の歌舞伎をはじめとした流行や時代の風潮を知ることで、江戸時代の人たちのレベルに近づくことができる。そのレベルに達して、楽しむことが、本当の浮世絵の楽しみ方だと思うんです。江戸時代の人たちが、なんでその浮世絵をいいと思ったのか。そして、どんな風に情報をキャッチしたのかっていうのを、授業を通じて再現してみたいと思ってます。

――江戸時代の庶民と同じように1枚の浮世絵を楽しむ……ということですね。

そう。江戸時代にタイムスリップできるんです。 それから、浮世絵は日本古来の文化だと思われがちですが、浮世絵の研究が始まったのは、明治の末以降なので、歴史が浅い。だから、意外と間違った通説がまかり通っている分野なんです。歌舞伎や落語、小説などといった、当時のいろんな江戸文化がリンクして作られているものだからこそ、何の知識もなく眺めていても、その魅力がなかなか伝わりづらいんですよね。

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