プライドが邪魔して人生がうまくいかない?サルの脳の仕業かも

杉山崇先生の大人の人間関係(4)@神奈川大学

受験、進学、就職、結婚、住宅購入、子供の教育……と、人生は誰かと比較することだらけだ。その中でたびたび顔を出すのがプライド。じつはこのプライドは、人間のもつ4つの脳「ワニの脳、ウマの脳、サルの脳、ヒトの脳」のうちサルの脳にかかわるものだという。そのわけを神奈川大学人間科学部教授の杉山崇先生に訊いた。

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受験、進学、就職、結婚、住宅購入、子供の教育……と、人生は誰かと比較することだらけだ。その中でたびたび顔を出すのがプライド。じつはこのプライドは、人間のもつ4つの脳「ワニの脳、ウマの脳、サルの脳、ヒトの脳」のうちサルの脳にかかわるものだという。そのわけを神奈川大学人間科学部教授の杉山崇先生に訊いた。

プライドはムダなものか?

神奈川大学公開講座「メンタルヘルス・マネジメント講座:大人の人間関係論 part2」は、脳科学と融合したサイコセラピーを研究している杉山先生が、人間関係にまつわるさまざまなテーマを解説していく人気講座だ。講座前半は前回、受講生から寄せられた質問に答え、講座後半でその日のテーマを講義する。

取材した日、寄せられた質問は──「プライドが高い人ほどできない自分に落ち込みやすいように思います。落ち込まない方法はありますか?」。

「プライドって、一見ムダなもののように思えますよね。心理療法にもいろいろなものがあって、心はムダだらけだとする見方もあるのですが、認知心理学では心にムダなものはないと考えています。私たちの心理も進化の産物と考えれば、役に立つものが残り、役に立たないものはそぎ落とされてきたと考えられます。

ではプライドとは何か。それには脳の構造が関係しています。プライドとは、私たちの脳をワニの脳、ウマの脳、サルの脳、ヒトの脳と4つに分けると、そのサルの脳なんです」(杉山先生)

サル社会で成功するために

「ワニの脳、ウマの脳、サルの脳、ヒトの脳」とは、発生学的に動物が獲得してきた脳の進化過程を示すものだ(詳しくは別記事「人間の脳はワニの脳→ウマの脳→サルの脳→ヒトの脳と進化した?」)

簡単に説明すると、ワニの脳はその瞬間の快楽を求める本能的な脳、ウマの脳はこれからの快楽を獲得するため安全や安心をモニタリングする脳、サルの脳は馬の脳の求める安全や安心を社会的に保証するため社会での関係性を欲求する脳、ヒトの脳はサルの脳の求める社会での関係性(たとえばヒエラルキーのより上位に行きたい)を達成するため課題と達成を戦略的に考える脳だ。

社会が複雑化するにつれて、ヒエラルキーのより上位に行ったほうが生き残りやすくなり、自分のDNAを残すことに成功する。これは猿山のボス猿を見ても明らかだ。

“プライド”は、この「ヒエラルキーを一つでも上げたい」というモチベーションなのだと、杉山先生は説く。

「プライドがないサル、つまり上位に行こうというモチベーションがないサルは生き残れないんです。私たちの先祖がサルに近い類人猿だった段階で、私たちはプライドを持ったといえるでしょう」(杉山先生)

健康で丈夫な人はポジティブ・イリュージョン持ちが多い

ただしサルのプライドとヒトのプライドは違う、とも杉山先生は言う。

「サルとヒトの大きな違いは、想像力の豊かさにあります。想像力が豊かとはよいことなのですが、反面、豊かすぎるがゆえに人間は想像力に振り回されるところがあります。そして、人間のプライドが想像力と結びつくと、ランキングの高い自分を想像してしまうんです。周りから尊敬され、いろいろなことができ、何をやっても拍手喝采を浴びるすばらしい自分──これが「誇大自己(ポジティブ・イリュージョン)」です。

ポジティブ・イリュージョンは大なり小なり、皆が持っています。とくに健康で元気な人は、だいたいがポジティブ・イリュージョン持ちです。『風邪なんかひかないよ』『徹夜しても平気』こういう人は、自分は人より健康で丈夫な素晴らしい自分、というファンタジーに酔いしれています。そうしたポジティブ・イリュージョンはとても気持ちのよいものなんです」

過度なポジティブ・イリュージョンに注意

ポジティブ・イリュージョンに浸るのは、けっして悪いことではないらしい。逆にうつの人はポジティブ・イリュージョンが見られない人が多いという。

「自分は健康で元気でハッピーといった軽いポジティブ・イリュージョンくらいなら、持っていた方が人にも優しくできますし、人をハッピーにしようという気になります。しかしファンタジーが大きくなりすぎて現実から遊離してしまうと、周りが迷惑してきます。

また、そうなると、できない自分に直面した時、落ち込みがひどくなります。それがプライドが高い人ほど落ち込みやすい、といったふうに見えてしまうんですね。ポジティブ・イリュージョンは軽い段階にとどめておいたほうがよいでしょう」

杉山崇
すぎやま・たかし 神奈川大学人間科学部教授、心理学者
1970年山口県生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。医療や障害児教育、犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究に取り組んでいる。臨床心理士、1級キャリア・コンサルティング技能士。『ウルトラ不倫学』『「どうせうまくいかない」が「なんだかうまくいきそう」に変わる本』等著書多数。最新刊は『心理学者・脳科学者が子育てでしていること、していないこと』(主婦の友社刊)。

◆取材講座:メンタルヘルス・マネジメント講座「大人の人間関係論 part2」(神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター/KUポートスクエア)

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