若手技術者が40年間企業で働くために今、必要な知識とは

【Interview】東京電機大学工学部第二部長 佐藤太一教授

社会に出てからもう一度大学で学び直したいという人は数多い。そのために多数の大学が通信教育や専門職大学院などのカリキュラムを用意している。一方、かつて就労学生を支えた夜間部は急速に減りつつある。とくに理工系においてその傾向は顕著だ。いま理工系二部で気を吐いているのが、東京電機大学だ。来春から大きくプログラムを変更し、技術者の学び直しにぴったりのカリキュラムに生まれ変わろうとしている同大学を取材した。

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東京電機大学工学部第二部長の佐藤太一教授

社会に出てからもう一度大学で学び直したいという人は数多い。そのために多数の大学が通信教育や専門職大学院などのカリキュラムを用意している。一方、かつて就労学生を支えた夜間部は急速に減りつつある。とくに理工系においてその傾向は顕著だ。いま理工系二部で気を吐いているのが、東京電機大学だ。来春から大きくプログラムを変更し、技術者の学び直しにぴったりのカリキュラムに生まれ変わろうとしている同大学を取材した。

これからの技術者が40年間、企業で働くために

「いま若手の技術者がこれから40年間、企業で働いていくということは大変なことです」と、東京電機大学工学部第二部長の佐藤太一教授は口火を切った。

世界中をマーケットに各社が技術力や商品化にしのぎを削る時代になった今、すべてのスピードが速くなり、技術者にも従来の研究・開発・製造にとどまらない、さまざまな能力が必要とされてきている。

「技術者も、今までのように自分の専門領域だけの仕事をしているだけでは追いつかない時代になりました。品質管理や特許関係、安全・安心のための知識、そして技術的知識を持たない上層部や外部に説明するためのプレゼンテーション・スキルも要りますし、もちろん英語力も必要になってきています」(佐藤教授。以下「 」内同)

佐藤教授によれば、そうした知識やスキルを積ませたくても、特に中小企業ではなかなか難しいという。また大手企業も、昨今は技術者の能力開発に時間と資金を投じる余裕をなくしつつある。加えて、景気の動向や各種のイノベーションによって、研究開発や製品ラインの方向を大きく変える経営判断を迫られるケースが増えている。

そこで東京電機大学では、来春、平日夜間(18:10~)および土曜に開講していた今までの「社会人コース」を、開講曜日・時間はそのままに、新しい「社会人課程」へと刷新するという。

キーワードは〈実践知〉

東京電機大学の新しい社会人課程は、「実践知重点課程」と位置付けられている。〈実践知〉とは何かというと、「ものづくりの現場で適切な判断をくだす」能力をさす。つまり、技術者として必須の工学的知識に加え、製品化していく過程も含めて技術全体を俯瞰しうるような知識・スキルを身につけ、新しいイノベーションを起こせるような創造的能力を開発しようという試みである。

そのために従来の科目に加え、新しく用意された「実践知重点科目」は次の3つのユニットだ。

〈開発・設計〉ユニット
ものづくりの現場で活きる「知識の使い方」や「問題の解決方法」を学ぶ。その中にはイノベーションヒストリーなどの技術史や、製品の設計デザイン、シミュレーション工学、そして品質管理や特許法なども含まれる。

〈安全・安心〉ユニット
技術者として知っておくべき「安全・安心」について学ぶ。対象は材料などのミクロなものから、インフラなどのマクロなものまで。概念としては材料の信頼性工学から応用失敗学までをカバーする。取り上げる例としては、地震工学や防災計画なども含まれる。

〈スキル・キャリアアップ〉ユニット
技術をわかりやすく伝え、キャリアを形成していく方法論を学ぶ。自分のアイデアを、文系出身者にもわかりやすく伝えるプレゼンテーション・スキル、英語でプレゼンテーションできるための英語スキル、工業英検などの技術者として求められる英語資格、そしてキャリア形成学や経営学をも含むものだ。

どれも、社会経験を積んでこそ、その必要性を痛感する科目ばかりだ。しかし、ひとつ注意しておかなければならないことがある。今までの「社会人コース」は働いている人であれば、アルバイトであっても所属することができた。しかし新しい「社会人課程」は、企業で社員として働いてきた技術者であることを課程所属の資格としている。まさに企業人のための〈実践知〉工学部へと変わるわけである。

これらの科目を単独あるいは複数で受講することも

しかし、いくら夜間と土曜日とはいえ、4年間かけて学んでいくのは、なかなか難しい。また、こうした内容を学びたいが、受験勉強をする時間がない。そう考える人も多いだろう。

そういう人や、現在の仕事とうまく両立させながら必要なジャンルのみを学ばせたいと考える企業のために、複数科目を短期に受講できるプログラムも用意されている。それが「履修証明プログラム」(予定)だ。

たとえば、〈開発・設計〉ユニットのみを選んで半年で受講し単位を取得することも可能だという。この「履修証明プログラム」(予定)の場合、大学受験をする必要はなく、大学・短大・高専・高校等を卒業した企業人であれば応募できるという。これであれば、企業の研修としても利用可能である。

日本が再び技術立国をめざすなか、技術人への新しいリカレント教育(再教育)の仕組みが始まっている。就労と学習知識と経験。この2つを両輪として人間ひとりひとりが能力を開発していく時代に入っている。

明治維新の時にも、敗戦後の荒廃した時にも、日本を再生させたのは教育だった。東京・北千住の地から、東京電機大学が新たな技術者再教育の灯をともそうとしている。

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取材・文・写真/まなナビ編集室

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