世界初の洗濯物折りたたみ機が生まれるまでの超絶苦労

社会人向け新教育課程開設記念フォーラム(その4)@東京電機大学

洗濯するのは洗濯機、乾燥するのは乾燥機。しかしそのあとたたむのは人間がやってきた。ついにそれを自動化する商品が発売される。それが『ランドロイド』だ。その開発者である阪根信一氏(セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(株)代表取締役社長)が商品化への道のりを語る。

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セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(株)代表取締役社長、阪根信一氏

洗濯するのは洗濯機、乾燥するのは乾燥機。しかしそのあとたたむのは人間がやってきた。ついにそれを自動化する商品が発売される。それが『ランドロイド』だ。その開発者である阪根信一氏(セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(株)代表取締役社長)が商品化への道のりを語る。

洗濯物をたたむ行為に費やされる時間に驚く

2015年に発表されてから大きな話題を呼んできた『ランドロイド』。あの面倒な衣類たたみ作業から解放される!という胸躍る期待感とともに、「また、なんでそんなものを開発したのか」「いったいくらするのか」「大きさは?」と、さまざまな疑問を抱いた人も多いことだろう。

この9月、東京電機大学で開催された社会人向け新教育課程開設記念フォーラムにゲストスピーカーとして招聘された阪根氏は、開発の理由から困難を極めた道のりまでを語った。

「セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズは、人々の生活を豊かにする技術に特化し、“世の中にないモノを作り出す集団”と、自分たちを位置づけています。そのため、開発テーマには3つのクライテリア(判断基準)を設けています。

(1)世の中にないものであること
(2)人々の生活を豊かにするものであること
(3)技術的ハードルが高いものであること

このテーマを探して探してたどり着いたのが、洗濯物たたみ機だったのです。

洗濯物をたたむ。その行為だけにどれほどの時間がかかっているかご存じですか? 日本の平均的な4人家族で、一生のうちランドリー行為というものに費やしている時間は調査によれば1万8000時間なのですが、なんとその半分の9000時間は、洗濯物が乾いたあと取り込んだり乾燥機から取り出したりして、衣類をたたんで仕分けてしまう行為に費やされているのです。これは日数に直すと375日。洗濯物が乾いた後の作業に、じつに一生のうち1年以上もの時間がかかっているという衝撃の事実が判明しました。

もしこれを自動化できれば、人々の生活を豊かにするだろう、人生に新たな時間を創造することになるだろうということで、開発をスタートさせたのが2005年のことです」

開発からじつに12年。2017年5月から予約を開始し、2018年から出荷されるという。

1枚の衣類を仕分けることがなぜそんなに難しいことなのか

それにしてもなぜ12年もかかったのだろうか。

「じつは開発を始めて3年経った2008年くらいには、衣類を1枚置けば自動でたたむというシステムはもうできあがっていたんです。これで発売しましょうという声も社内にありました。しかし、1枚1枚、人が置いたらたたむ、というのでは全自動とはとても言えない。また、次の段階として洗濯乾燥機との一体型が想定されるわけですが、その時に乾燥が終わったあとに、いちいち人が置かなければならないのなら完全自動化はできないですよね。そこで、『20~30枚の衣類をごちゃっとランダムな状態で置いても、折りたたんで仕分けてくれるものでなければ売れない』、と言いました。そこから迷走が始まりました」

つまり『ランドロイド』は、“洗濯物の山”から、ひとつずつ拾い上げてはアイテム別や構成員別に仕分けて折りたたんでくれる、夢のような家電なのだ。しかしその「ひとつひとつ仕分ける」という作業が大変だったのだと阪根氏は語る。

「そこから5年くらいは、まさに暗闇のトンネルでした。何がそんなに難しいのかというと、固形物を画像認識する技術はそれほど難しくはないのですが、衣類は持った瞬間に形状が変わる。そうした柔軟物を認識する技術は極めてハードルが高くて、このアルゴリズムを作り上げるのにとんでもない年月をかけてしまいました。

でも、けっして『できない』とは思っていませんでしたね。人間が仕分けるなら、目と手と頭でやる。『ランドロイド』は画像認識技術とロボティクスと人工知能でやる。絶対にできないはずはない、とあきらめず開発を継続した結果、完成しました」

その画像認識技術のレベルは我々の想像を超えている。

「1枚の衣類について、『ランドロイド』は人工知能も入れて20数回くらいの計算をします。『ランドロイド』側の最新のGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)もずっと計算をしているんですが、サーバー側の人工知能とも通信しながら計算していく仕様になっています。つまりランドロイドは、Wi-Fi接続環境下でのみ動きます。要するにクラウドにつながったIoT(Internet of Things=モノのインターネット)デバイスであるということになります」

IoTデバイスだからこそできること

気になる『ランドロイド』の形状だが、阪根氏が「ランドロイドはおしゃれ家電です。操作盤は本革、前面はガラス張り、左右は天然木で高級家具のようないでたちです」というとおり、見た目は高級感あふれる大型冷蔵庫(ただし冷蔵庫より奥行きは薄い)か、大型ワインセラーといった雰囲気だ。

一番下の、冷蔵庫であれば野菜室か冷凍庫にあたるボックスに、衣類をバサッと投入してスマホでスタートさせれば、ロボットアームがひとつひとつ衣類をつまみあげながら画像を認識し、折りたたみながら仕分けてくれるというわけである。

スマホで操作するIoTデバイスだからこそできることがある。どんどん頭がよくなるということだ。

「ソフトウェアの定期的なアップデートによって『ランドロイド』はどんどん賢くなります。最初はたたみ方もちょっとドンくさいのですが、徐々にきれいにたためるようになっていったりと、進化する家電です」

スマホと連動させれば、持っている衣類の着用頻度などを管理するオンライン・クローゼットにもなり、あまり着用しないものであればレンタルやネットオークションに即出せるような衣類コンシェルジュにもなるという。

「ただし欠点があります。時間がかかるんです」

下のロボットアームが衣類を持ち上げ、上のロボットアームと連携し、その都度画像を確認しながら人工知能の画像認識技術でどの衣類なのかを認識していく。わからなければまた持ち帰ってイチからやり直し、アイテムや誰の衣類かを認識したら、たたむ作業に入っていく。そして最終的にピックアップトレーに置く。これを全枚数終わるまで繰り返すのである。そのため、人がやれば数秒でできる作業でも、約5分から12分かかる。

しかし、この仕分けこそが『ランドロイド』ならではの便利な機能だ。デフォルトではタオルならタオル、ズボンならズボンというアイテム別に設定されているが、家族ごと仕分けモードも設定できる。1枚1枚広げて写真を撮り、このポケットがついているTシャツはお父さんのもの、といったように記憶させる作業を一度全員分やっておけば、あとはランダムに投入しても、洗濯物の山から、お父さんのもの、子供のもの、と各人別に仕分けてくれる。

マーケットリサーチをしたところ、時間は短いほうがいいが、夜投入して朝受け取るとか、朝投入して夕方帰ってきてから受け取るとかできれば時間がかかってもかまわないという声が多かったという。

『ランドロイド』はだいたいのものがたためるが、たためない衣類があるという。女性のパンティストッキングとかブラジャーなどの普段あまりたたまないものはたためない。また、現段階でできないことが3つある。

〇衣類のひっくり返し機能がついていないため、裏表をひっくり返したまま投入すると、ひっくり返したままたたんでしまう。
〇ボタン留め機能がないのでワイシャツを入れないでほしい。入れてしまうと、くちゃっとたたむか、たたまないままボックスに残っている。
〇靴下のペアリングができない。ランドロイドの人工知能をもってしても、微妙な紺と黒や、同じ黒だがテクスチャーが違うものが判別できない。中には正しいペアだが片方だけ縮んでいるというようなものがあるので、結局正解率が上がってこなかった。

聞けば聞くほど、悪戦苦闘の開発過程にため息が出るが、『ランドロイド』の価格にもまた、ため息が出る。今年5月に開始した限定予約販売での初号機の想定価格は185万円~(予定)。しかしさすが世界初、かなりの予約数だという。そして将来的に世界に普及した時には、折りたたみ専用機で10万円台、洗濯乾燥機との一体型で30万円を目指していると阪根氏は語る。人が洗濯物の山から解放される日が近づいてきている。

阪根氏のイノベーション哲学については、別記事「世界初を送り出す開発者「イノベーションはテーマがすべて」に掲載。

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取材・文/土肥元子(まなナビ編集室)

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