密通小説だった源氏物語の言葉ひとつひとつを味わう

ゆっくり読み返す源氏物語@中央大学クレセントアカデミー駿河台記念館

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静かななかにも緊張感の漂う講義風景

小説のおもしろさを知れば、表現力も磨かれる、かも!?

池田先生の講義はこのように、『源氏物語』がよくわかるだけでなく、小説を読むおもしろさも教えてくれる。

31歳の光源氏と37歳の藤壺の恋愛。 当時の37歳といったらかなりのおばさんと言ってもいい。プレイボーイの光源氏ならば、他にいくらでも女性を選ぶことはできたはず。でも母のおもかげを感じさせる藤壺は、ずっとそばにいてほしい女性だったのかもしれない。

光源氏はみずから藤壺の死を看取る。本当に最愛の女性なのだ。私も歳を重ねても、こんなふうに書かれたり、印象に残るような女性になれればいいなあと思ってしまった。

そして印象に残ったのが、『源氏物語絵巻』の藤壺には必ず夕日が描かれているということ。夕日がさしこみ、遠くに山が見え、その山に接している空に木の影がかかり、そこに雲がたなびいている。その雲は鈍色(にびいろ)、つまり葬式の色。平安貴族にとって最高の願いが、極楽往生。阿弥陀仏がお迎えにくるときは、紫雲に乗ってやってくる。雲は夕日に照らされ紫色に輝くのだ。

私のなかで『源氏物語』が具体的なイメージをもって輝き始めた。私はデザインの仕事をしている。脳をあまり使わないでいると、どんどん退化していくような気がしていた。マンネリに陥らない表現力を鍛えるためにも、古典を読んでボキャブラリーを増やしたいと思った。

源氏を学んで日本文化を語りたい

「この講座、面白かったでしょう?」 

講義終了後、隣の女性が話しかけてきた。振り向くと、バーバリーのコートを着てグッチのバッグを持つ50代くらいのマダム。ご主人の転勤で15年ぐらいニューヨークに住んでいたときに、日本の文化を学ばなければ、と痛切に感じたという。今の自分には日本の文化をアメリカ人に伝えることができない、そういった悔しい気持ちを抱き、帰国してからあちこちの「源氏物語講座」を受講して歩いたとのこと。

「いろいろ受講したなかで、私がもっとも感銘を受けたのが、この〈ゆっくり読み返す源氏物語講座〉だったんです」

私はシェアハウスに住んでいて、さまざまな国の友達がいる。しかし、日本の文化や歴史などを伝えられないもどかしさがいつもある。東京オリンピックまでに、自信を持って外国人の方に日本文化を伝えられるようになりたい!

マダムはここで勉強して10年になるという。長い方では30年ぐらい勉強している方もいるこの講座では、まだまだ新参者だと笑った。 そういえば池田先生がいっていた。

「戦前、『源氏物語』は密通小説と蔑まれていました。当時読むことが許されなかった大好きな源氏を、時間とお金にもゆとりができた今、こうしてじっくり読むことができて、少女時代に戻ったような気持ちなのです、という年配の女性もいらっしゃるんですよ」と。

〔講師の今日イチ〕「人間は言葉を扱うから、チンパンジーと違うんです」

〔大学のココイチ〕 この講座は多摩キャンパスではなく、お茶の水駅近くのレトロな駿河台記念館で行われます。場所を間違えたら大変なことになるので注意。

〔受講生のココイチ〕 押し花のしおりや、花柄の筆箱。鉛筆でメモを取る人が多かった。

 

取材講座データ
ゆっくり読み返す源氏物語講座 中央大学クレセント・アカデミー 2016年秋期講座

2017年1月20日取材

文・写真/渡邉麻衣子

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