ヤマトとセブン-イレブン。日本を変えた先取り発想

渡部博志 武蔵野大学准教授:言葉から探る経営と生き方@武蔵野大学

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高い「金の食パン」が大評判に

その経営哲学は、「仮説・検証をベースに仕事をせよ」。その仮説・検証の礎となるものが、先のPOSデータだったのだ。そして何より、セブン-イレブンで最も大切にされてきた経営哲学は次のものだ。

『お客様のために』ではなく、『お客様の立場に立つ』

利用者の立場に立って初めて、利用者がどのようなものを求めているのか、その心の中がわかる、という意味である。何より、利用者の心が第一なのだ。POSはそのためのツールでしかない、目的と手段を混同してはならない、ということだ。

セブン-イレブンはその後も、「セブン銀行」をつくり、プライベートブランド「セブンプレミアム」を世に送り出し、コンビニの新時代を作り続けた。とくに「セブンプレミアム」は、プライベートブランドのイメージを一新するものだったと渡部先生は語る。

「プライベートブランドとは、全国展開するナショナルブランドに対して、小売業者が自社のためだけに作るオリジナルブランドをいいます。そのため、プライベートブランドはナショナルブランドに対して安さを売りにするものでした。しかし、セブンプレミアムは高いものを作り、成功を収めたのです。その典型例がおいしいと大評判になった〈金の食パン〉です」

全国に“眠らない街”をつくった二人

2016年、鈴木は社長交代案が取締役会で否決されたことから、引退を表明した。小倉昌男も鬼籍に入って12年が経つ。しかし、宅急便とコンビニは、驚くほど私たちの生活を変えた。いま私たちは全国から(時に世界中から)欲しいものを取り寄せ、時間を気にせずに買い物をする。かつて盛り場にしかなかった“眠らない街”は、いまやどこにでもある。時間と空間という大きな制約を気にしなくとも生きていける世の中になったのだ。

“現代”をつくった二人の経営者。その経営を知ることで、私たちは自分たちの暮らしの本質を知ることができる。最後に「経営」を学ぶ意義について、渡部先生に聞いた。

「経営と聞くと、社長のための学問と思われる方が多いのですが、そうではないのです。経営とは英訳すると“マネジメント”。今あるもので何とかやっていく、という意味です。クラブ活動にも、町内会にも、マンションの理事会にも、ボランティア組織にもマネジメントが必要です。身近なところでは家計運営だってマネジメントでしょう。資産、人員、時間、スペース、能力、そういったものを何とか活用して理想に近づけていく。そうしたことを知るのに、経営学は非常に役立つと思うのです」

経営について語る渡部博志武蔵野大学准教授。研究室にて

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文/まなナビ編集室 写真/SVD

 

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