ヤマトとセブン-イレブン。日本を変えた先取り発想

渡部博志 武蔵野大学准教授:言葉から探る経営と生き方@武蔵野大学

現代の生活になくては欠かせない、個人宅配とコンビニをテーマに、武蔵野大学で公開講座が開かれた。「宅急便」で知られるヤマト運輸を成長させた小倉昌男と、セブン-イレブンを日本国内で成長させた鈴木敏文を取り上げ、運送業と小売業に革命をもたらしたこの二人の経営哲学を講義するものだ。見えてきたのは、“現代”をかたちづくった先駆性である。

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東京副都心・新宿。新宿区にセブン-イレブンは73店、ヤマト運輸営業所は40店近くあった。宅急便の取り扱い店はどれ程の数にのぼるのだろう

現代の生活になくては欠かせない、個人宅配とコンビニをテーマに、武蔵野大学で公開講座が開かれた。「宅急便」で知られるヤマト運輸を成長させた小倉昌男と、セブン-イレブンを日本国内で成長させた鈴木敏文を取り上げ、運送業と小売業に革命をもたらしたこの二人の経営哲学を講義するものだ。見えてきたのは、“現代”をかたちづくった先駆性である。

クロネコヤマトはマンハッタンの十字路から

「言葉から探る経営と生き方─生活に欠かせないコンビニと宅急便」の講師である武蔵野大学准教授の渡部博志先生は、講義冒頭、下のような写真を指差して、質問を投げかけた。

交差点

「皆さん、この写真を見てください。交差点を上から見たものです。この中に宅急便とコンビニエンスストア(以下「コンビニ」)に共通する特徴があるんです。わかりますか?」

あっけにとられながら写真を見る。摩天楼の林立する四つ角である。すると渡部先生はこう続けた。

「宅急便、クロネコヤマトの生みの親、小倉昌男(1924-2005)はマンハッタンのビルから十字路を見下ろして、『これだ!』と思いついたのです。そこにはUPS(ユナイテッド・パーセル・サービス=アメリカの大手貨物運送会社)のトラックがそれぞれの交差点に1台ずつ合計4台停まっていました」

キーワードは“密度”

至近距離に4台も停まっているなんて何と非効率な、と考える人は、小倉のような革命的経営者にはなれないようだ。渡部先生によれば、小倉は十字路に4台ものトラックが必要なのだととらえたのだという。しかし、それとコンビニの共通点というのがわからない。

「皆さんは、四つ角のあっちにもこっちにもコンビニを目にすることはありませんか? 同じコンビニチェーンの店舗が近くにいくつもあって、なぜこんなに集中して出店するのだろうと疑問に思ったりはしませんか? それがコンビニのもつ特徴なのです。つまり、宅急便とコンビニは、“密度”を必要とするサービスなのです」

配送荷物ひとつひとつの利益は薄くとも、それがいっぱい集まれば商売が成り立つ。コンビニも人が多い場所にまとまって出店したほうが、たとえ競合が生じた場合であっても配送の手間や費用は省ける。人が集まる大都市は“密度”が高い商売がうまくいくのだ。それにしても、クロネコヤマトの宅急便が登場したのは1976年。セブン-イレブンが日本で産声をあげたのは1974年。今からたった40年ちょっと前の話である。

渡部先生によれば、宅急便とコンビニの共通点はまだあるという。在庫の利かないサービス業であるということと、そのためにITを駆使しているという点だ。しかしその前に、宅急便の生みの親、小倉昌男の経営哲学について記そう。

早く着きすぎるとゴルフ場が怒る

小倉昌男は大正時代に父親が創業した大和運輸の2代目として生まれた。戦前は近距離路線では日本一のトラック運送会社だったが、戦後、長距離路線に乗り遅れ、収益は悪化していった。当時、配送業者の収益源は商業貨物。たとえば、工場から販売店へのメーカー商品の配送や歳暮・中元シーズンの配送などだ。しかし、販売店への配送は行きは満杯でも帰りは空っぽの片道切符で、歳暮や中元など、繁忙期が限られていた。そんな中で父から経営のバトンを受け取った小倉が出会ったのが、冒頭のマンハッタンの四つ角すべてに停車しているUPSのトラックだった。小倉は商業貨物から個人宅配へと大胆に経営の舵を切った。

そんな小倉の経営哲学の真髄を示す言葉がこれである。
サービスが先、利益が後

サービスと利益(あるいはコスト)を天秤にかけて判断するのではない。よいサービスを提供していれば、結果として利益がついてくるのだ、と言い切るところに、小倉の経営者としての真骨頂がある。このサービス精神が、単に物を運ぶだけではない、付加価値の高い宅急便サービスを生み出していく。たとえば配達の時間帯指定、ゴルフ宅急便、スキー宅急便、クール宅急便などだ。

「ゴルフ宅急便を始めた時は苦労も多かったようです。送り主はプレーする日に届いていないと困るので早めに送ります。しかし何日も前に届くとゴルフ場にとっては邪魔になり怒られるので、着日を守らなければならなかった。また、送り主がゴルフ場の住所を覚えていないケースも多かった。また、送るのは送れても、ゴルフ場が宅急便サービスを持っていないとゴルフ場から送り返せない。その交渉もしなければならなかったのです」

 

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