ソーシャル・ビジネスに特化した連続講座
専修大学大学院ではソーシャル・ビジネスを研究・実践する講師を招いて、ソーシャル・ビジネスの現状や課題を議論する連続講座を開催している。この連続講座のコーディネーターを務めるのは、同大学院の商学研究科教授・神原理先生と経済学研究科教授・遠山浩先生。第1回は元東京大学総長で三菱総合研究所理事長の小宮山宏先生と、専修大学経済学研究科客員教授の嵯峨生馬先生が「成熟社会に求められるソーシャル・ビジネス・ネットワーク」を講演した。
これに続く第2回「商品をとおした社会的課題への取り組み -ソーシャル・プロダクツの役割-」が今回取材した講座だ。ゲスト講師はソーシャルプロダクツ普及推進協会事務局長の中間大維氏。神原先生がソーシャル・ビジネスとは何かを語り、その後、ソーシャル・ビジネスに携わる中間氏が現状と課題について語った。
世界中が熱狂した「ウィ・アー・ザ・ワールド」も
神原先生はまず、1985年に世界中で流れた、あの有名な歌を紹介した。マイケル・ジャクソンほか北米のトップ・アーティストが参加した「ウィ・アー・ザ・ワールド」(We Are The World)だ。この歌は、「USAフォー・アフリカ」をキャッチフレーズに、アフリカの貧困と飢餓を歌を通じて救おうとした取り組みだった。
神原先生は語る。
「このCDは世界中で大きな売り上げを記録しました。これは現代的なソーシャル・ビジネスのルーツだと言える取り組みでした」(神原先生。以下「 」内同)
雑誌、洗剤、ベーカリーショップ……。広がるソーシャル・ビジネス
ソーシャル・ビジネスの枠組みで製造された商品をソーシャル・プロダクツというが、神原先生は、ソーシャル・プロダクツのわかりやすい例として、以下のものを挙げた。
「『BIG ISSUE』もそうです。これはホームレスの人が雑誌を売って社会復帰を目指すもので、イギリスで始まりました。雑誌という商品を通して社会問題の解決を目指すものです。
また、サラヤ株式会社の「ハッピーエレファント」という洗剤の商品群もそうです。洗剤の原料となるのはパームヤシから採れるパーム油ですが、パームヤシのプランテーションを作るときに密林を開拓してしまうんですね。そのためボルネオの密林がどんどん減っていった。そこで収益の一部をあてて森林を保全しようという活動をしています。
ヤマト福祉財団がサポートしているスワンベーカリー事業もそうですね。障がい者の自立のために、障がい者がパンを焼いて売るベーカリーショップ「スワンベーカリー」を展開しています」
具体的な例があがると、ソーシャル・プロダクツのイメージが広がる。今までは貧困などの社会的課題は、行政が解決するものとされてきた。しかし、行政の支援ではなく、また、ボランティアでもなく、ビジネスの仕組みを使って課題を解決・解消しようとするものがソーシャル・ビジネスなのだ。
それはイチから新しい商品やサービスを作り出すことのみを指すのではない。既存の商品をアレンジしたり、商品の製造ラインや供給ラインに新しい仕組みを取り入れたりしても可能なのである。
課題はソーシャル・プロダクツの認知度UP
ソーシャル・ビジネスは、困っている人を助けているようで、じつは助けられている面もある。ソーシャル・プロダクツを買う時、私たちはそこに、社会貢献に参加しているという嬉しさを感じる。それは金銭には代えがたい喜びだ。また、ソーシャル・プロダクツを目にするからこそ、社会に横たわる問題に気づく、という面もある。
神原先生は、ソーシャル・ビジネス、ソーシャル・プロダクツの認知度を上げていくことが、今後の課題だと語る。日本ではここ5、6年で広がってきているが、まだまだ知られていない状況だ。しかし、日本にはもともと、「結(ゆい)」とか「講(こう)」といった相互扶助の組織があった。けっして素地がないわけではない。
ソーシャル・プロダクツを選ぶことで、企業も売り上げを伸ばし、困った人も救われる。そのためにも、広く社会で認知されていくことが望まれる。
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◆取材講座:「商品をとおした社会的課題への取り組みーソーシャル・プロダクツの役割」(専修大学大学院公開講座)
文・写真/まなナビ編集室