メカジキからデニムを作るソーシャル・ビジネスの意義

中間大維氏「ソーシャル・プロダクツの役割」@専修大学大学院公開講座

近年、社会的意識の高まりとともに注目を浴びつつあるソーシャル・ビジネス。貧困や差別などの社会問題を、営利事業を行いながら持続的に解決していく取り組みのことをいい、生み出された商品やサービスをソーシャル・プロダクツという。社会貢献につながるなら購入したいが、「ソーシャル」な商品と、そうでない商品はどこが違うのかがよくわからない。そこでソーシャル・ビジネスを学ぶ公開講座を取材した。

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近年、社会的意識の高まりとともに注目を浴びつつあるソーシャル・ビジネス。貧困や差別などの社会問題を、営利事業を行いながら持続的に解決していく取り組みのことをいい、生み出された商品やサービスをソーシャル・プロダクツという。社会貢献につながるなら購入したいが、「ソーシャル」な商品と、そうでない商品はどこが違うのかがよくわからない。そこでソーシャル・ビジネスを学ぶ公開講座を取材した。

メカジキとジーンズのつながりとは?

専修大学大学院では一般人を対象に、ソーシャル・ビジネスについての公開講座「ソーシャル・ビジネスの現状と可能性」を定期的に開いている。取材した日のテーマは「商品をとおした社会的課題への取り組みーソーシャル・プロダクツの役割」。講座のコーディネーターは同大学院商学研究科教授・神原理先生、講師はソーシャルプロダクツ普及推進協会事務局長の中間大維氏だ。

中間氏は、講義開始早々、受講生に問いかけた。

中間氏「オイカワデニムを知っている人、いますか? 宮城県気仙沼市のデニムの会社なんですが、こういうジーンズ見たことありますか?」

誰も手をあげない。すると中間氏は次の写真を見せて再度訊ねた。

中間氏「これは何かわかりますか?」

受講生「カジキマグロ……ですよね」今度は声があがる。

中間氏「はい、これはメカジキです。オイカワデニムとメカジキのつながりがわかりますか?」

受講生「同じ気仙沼……だから?」と心細そうな答え。

中間氏「そう、気仙沼はメカジキの水揚げ日本一の町、メカジキは気仙沼の象徴です。でもそれだけではないんです」

そしてオイカワデニムのストーリーが語られた。

捨てられる上あごを原料に

「オイカワデニムは気仙沼で高品質のジーンズを作る会社として知られていました。しかし2011年の東日本大震災で、在庫を保管していた倉庫等は津波で流されてしまい、唯一残ったのが高台にあった工場でした。オイカワデニムの社長や社員は避難所で、もう一度活力のある街を取り戻したいと、どんなものを作れば震災復興につながるのか、できれば気仙沼の象徴となるものがいいと考えたんです。そこで、日本最大の水揚げ量を誇るメカジキをジーンズに使うことを思いついたんです。

カジキマグロは剣のように長く伸びる上あごを持ってます。これを吻(ふん)と呼ぶのですが、吻は長く鋭くて危ないので、船上で切り取って捨てるしかありません。その廃棄量は年間40トン。

水揚げされたメカジキ。鋭く長い吻(ふん)は船上で除去される

そこでオイカワデニムはこの廃棄されるメカジキの吻を使って、気仙沼でしかできないデニムを作ったんです」(中間氏。以下「 」内同)

なんとメカジキの吻を繊維にして織り込んであるのだという。

講演後、オイカワデニムに確認したところ、メカジキ由来繊維の割合は全体の繊維の40%にものぼり、ボタンにもヤシの実を使って“土に還るデニム”を目指したという。また、重量はオイカワデニムの綿100%ジーンズよりも12%~15%重量が軽い。メカジキの糸をピュアインディゴで染めたものを縦糸に、メカジキの吻からとった色(グレー)で染めた綿の糸を横糸に使用しているため、通常のデニムとは異なる色落ちをするという。

オイカワデニムのメカジキジーンズ

ソーシャル・プロダクツとそれ以外の商品はどこが違うか

ソーシャル・プロダクツと聞くと、環境に負荷をかけないよう有機栽培されたオーガニック・コットンや、発展途上国のカカオやコーヒーなどを適正価格で買い上げて商品化するフェアトレード商品が思い浮かぶが、このオイカワデニムの作り上げた商品もすばらしいソーシャル・プロダクツだ。廃棄されていた資源を活用し、復興を願う心をその中に込め、高品質の商品を作り出したのだ。

中間氏は、ソーシャル・プロダクツとは、次のような特徴を持つものだという。

(1)人、地球、社会に対して特別な配慮がある
これはソーシャル・プロダクツの不可欠な条件となる。この中でも「特別な配慮」というところがミソだ。たとえば「電力量20%削減」などのルールに則って作られた商品は、環境への配慮はあるが、それだけではソーシャル・プロダクツとは言わない。なぜならそれは「あたりまえの配慮」だから。ルール以上の配慮があるのがソーシャル・プロダクツだ。

(2)商品の先(背景)が見える
これは「ストーリー」と言い換えてもいいかもしれない。この商品を使うとこうなるんだな、とか、この商品を使うことでこうした取り組みを実現できるんだな、といった感覚(商品の先にある人や社会的課題とつながる感覚)を抱けるのがソーシャル・プロダクツだ。

(3)中長期的な育成が必要
例えば、寄付付きの商品でも、寄付が適切に使われるのか、寄付による社会的課題の解決・緩和が進んでいるのかが生活者に見えるようになるには時間がかかる。そうしたものが見えてくることで初めてソーシャル・プロダクツとして認められるようになる。また社会的課題は一朝一夕に解決できるものではない。その意味でもソーシャル・プロダクツは長い目で育て、継続的に生活者に選んでもらう必要がある。

その夜、スーパーでメカジキの切り身を見ていたら、オイカワデニムが欲しくなってきた。記者は学生時代を仙台で過ごした。気仙沼出身の友人と同じアパートに住んでいたこともある。あの人は無事に暮らしているだろうか……。ソーシャル・プロダクツは人の記憶にも作用する。

〔あわせて読みたい〕
社会的課題を解決するソーシャル・ビジネスとは

◆取材講座:「商品をとおした社会的課題への取り組みーソーシャル・プロダクツの役割」(専修大学大学院公開講座)

講師プロフィール:中間大維(なかま・だいすけ)
一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会事務局長。ソーシャル・プロダクツの認知度向上、マーケット拡大のための活動に従事している。著書『その商品は人を幸せにするか』

ソーシャル・プロダクツについて語る中間氏

文/まなナビ編集室 写真/オイカワデニム(デニム)、気仙沼市観光課(メカジキ、市場)

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