人格の成熟のためにはこの3つが大事
中年期の男性にも増え始めているという新型うつ病。「(こんな嫌な仕事を我慢してやっている自分は)いやだ!」となり、職場を憎み、上司を攻撃するようになってしまう。
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これを避けるには、人間が精神的に健康で、人格が成熟していることが大切だという。
この人格の成熟について杉山先生は、アメリカの精神科医ロバート・クロニンジャーの人格の成熟理論に基づいて、次の3つのベクトルがまんべんなく成長することが大切だと指摘する。
それが、『自己志向性』『協調性』『自己超越性』だ。
「『自己志向性』とは、『自分がこうあるべき』というものです。人格の形成に不可欠のものですが、これだけが突き抜けて成長すると独善的になり、他人に対して厳しくなります。そうすると人にも物にも恋ができなくなるんですね。
『協調性』とは、『自分と他人の違いを受け入れて人の立場や人の気持ちを許すことができること』です。とてもすばらしい要素に思えますが、これだけが突き抜けて高いと、今度は主体性がなくなって依存的な人になってしまいます。
人格の成熟には、まずこの二つ、『自己志向性』と『協調性』がうまく共存することが大切です」(杉山先生)
40代からすごく大切になってくる『自己超越性』
「次に『自己超越性』。これはいわゆる『おかげさま』の感覚です。『おかげさまでうまくいきました』などと使うでしょう? 要するに、見えないところで支えてもらっている、という感覚。これがあると孤独にならないんです。
この『自己超越性』は人間では40代くらいからものすごく大切になってきます。これを持たないまま中年期に突入してしまうと、世の中に対する不満が高まると言われています。40代は孤独感や虚無感が強くなる年代です。『自己超越性』は年齢があがるにつれて大事になっていくものなんです。
でもそのためには、若いうちに『自己志向性』と『協調性』がしっかり育っていることが大事なんです。この二つが育っていないのに『自己超越性』だけが高い人は、無秩序で不思議な人になってしまうと言われています。
『自己志向性』『協調性』『自己超越性』この3つを兼ね備えていると、目の前の現実を含めて、いろいろなものを愛することができるようになります。それが人生の充実につながるのです」(杉山先生)
人間にはそれぞれの年代に備えておくべき資質がある。とくに中年の人は『おかげさま』の感覚を意識することが大切だろう。
次回は、部下が新型うつ病らしい場合、どう対処したらよいかについて解説する。
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すぎやま・たかし 神奈川大学人間科学部教授、心理学者
1970年山口県生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。医療や障害児教育、犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究に取り組んでいる。臨床心理士、1級キャリア・コンサルティング技能士。『ウルトラ不倫学』『「どうせうまくいかない」が「なんだかうまくいきそう」に変わる本』等著書多数。
◆取材講座:メンタルヘルス・マネジメント講座「大人の人間関係論 part2」(神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター/KUポートスクエア)
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