数年前、何気なく新聞広告を見ていた私。「うそーっ! マリンバの生徒募集!?」。
そんな教室があるの!? 何度も見返した。
私は木琴と小学校の音楽の授業で出会って以来、毎日ポンポンと叩いていた。自己流もいいところ。先生に習うなどとは思いもしなかった小学校時代。
音楽会にはもちろん木琴を弾いていた。熱は冷めず、中学時代も高校時代も一人で叩いていた。
木琴は、少しずつ大きな物になり、半音がつき、スタンド式になり、ついに就職した年に、姉に頼んでプロ仕様の最低ランクのマリンバを親に借金をして購入。弟や友の結婚式には余興で弾いたりもした。
しかし時が経ち、結婚し子供も生まれ、夫の脱サラの仕事にも追われて、マリンバは忘れ去られ弾くこともなく邪魔にされる始末。そのまま置いておいても宝の持ち腐れと、欲しいという中学校に寄付した。
そんな中で見つけた広告。マリンバの熱は再び。でも、70歳の私には申し込む勇気がなかなか持てず、広告を見てから1週間が過ぎてしまった。やっとの思いで電話。すでに定員オーバーとのこと。エーっと落ち込む。
それから数年。新聞広告を見続ける日が続く。そんな時に見つけたのです。前回のことがあるので迷わず電話。申し込むことができた。
すでに子どもたちは皆巣立ち、夫も亡くして一人暮らし。でもワクワクと希望が湧いてきたことを思い出す。
バスに乗って稽古に通う。デパートですら一人で行くことができなかった私がだ。第一歩を踏み出すことができた。子ども時代からの夢が叶った瞬間だった。
嬉しくて嬉しくてたまらなかった。初めてのレッスンの感動は、今も思い出す。グループレッスンと思っていたら、個人レッスン。月2回の30分。まだ30代と若い先生(プロの演奏家でもある)。マレット(木琴を叩くばち)の持ち方から教わった。
楽器ではなく、テーブルを交互に叩く単純な練習。左手を前に、右手を90度に曲げての構え。習うことの嬉しさに、あっという間に30分。時間の短さに驚く。
習い始めて10ヶ月を迎える頃、中古のマリンバを買った。やっぱり音が出ることはいい。ますます練習に力が入る。予習復習は怠りなく、我ながら優等生だと思う。
3年が経つ頃には、マリンバの発表会があった。
他の生徒さんに会うことは、稽古の時にすれ違うくらいだったが、他の人の演奏を聴くことができてよかった。
皆さんはやはり若く、長く習っているようだった。またまた刺激を受け、上手くなりたいと思う。
75歳を過ぎてもまだ前を向いている自分に、自分で驚く。これもマリンバのおかげだと思う。目も耳もリズム感も落ちていく中、これ以上は良くならないが、少しでも留まっていたい。
まだまだ教わることはいっぱい。ほんの少し前に進めたことが嬉しい。嬉しいことが変化していくこともまた嬉しい。そんな毎日だ。
(作文のタイトルは編集室が付けました)