学生時代から続けていたチェロだったが
50年以上前大学に入学したての4月、通りかかった教室からチェロの音が聞こえてきました。よく聞いていたバッハの無伴奏チェロソナタでした。その演奏はそれほど上手くはなかったのですが重厚な低音はとても強い印象を私に与えてくれました。私も弾けたらいいだろうなと思って管弦楽団クラブに入りました。トランペットはブラスバンドに入っていたので経験していましたが、チェロは完全な初心者でした。個人レッスンの先生を紹介されて週1回通いました。レッスン料は1回500円でした。
当時は貧乏学生で楽器を買う余裕はありませんでしたので、クラブ所有の楽器を使わせてもらいました。ところが、これがなんとベニヤ製で頑張って弾いても音があまり出ませんでした。授業をさぼって部室で練習ばかりしていました。猛練習のお蔭で3年次にはチェロソナタの1番は真似事程度には弾けるようになりました。卒業後も個人レッスンは続けました。30歳になった頃暮らしに少し余裕ができたので楽器を買い替えました。やはり日本製でしたが、ベニヤ製よりはましな音がしました。練習する曲はいつもバッハの無伴奏チェロソナタでした。ところが40歳あたりから仕事が忙しくなって個人レッスンンもやめてしまいました。いつか時間ができたらまた再開しようと思っていました。
定年して手に入れたイタリア製の楽器
そして5年前に定年。チェロの練習を中断してから4半世紀ぶりに、ようやくチェロに打ち込む時間ができました。それも好きなだけやれるのです。まず、退職金の半分近くを使って分不相応なイタリア製の楽器を購入しました。大変良い音がします。私は50代で管理職にあった頃、くたくたになって帰宅するときに電車内でいつもこんなことを夢見ていました。
「定年になったら思いきりチェロを練習するんだ。そして、1曲でいいからヨーヨー・マにもカザルスにも負けないくらいの演奏を人前でするんだ。」
これを実現する時がついにきたと思いました。今、近所の音楽学院に通って個人レッスンを受けています。昔はとても無理だと思っていた曲は今ではなんとか弾けるようになりました。まだまだヨーヨー・マを超える演奏など考えられませんが、練習をやめたらその夢はかなわないからとにかく続けることが大事だと自分に言い聞かせています。
ついに2018年、夢への第一歩
一人家でチェロを弾きながら、こんなことを想像しているのです。
「燕尾服を着てサントリーホールの舞台に立ち、満員の聴衆を前にバッハの無伴奏チェロソナタを弾き終えた自分がいる。アンコールの拍手がやまない会場。さて、アンコールに弾くフオーレの『夢の後に』を弾き出す自分がいる。」
こんなことを想像していると時間がたつのも忘れてしまいます。サントリーホールはさすがに無理ですが、来年1月に近所の区民ホールで発表会に出ます。子供が走り回っているような低レベルの音楽会ですが、気分はヨーヨー・マのつもりで『夢の後に』を弾きます。少なくとも数人の聴衆を唸らせてやろうと気負っています。
こういう話を妻に聞かせると妻は呆れてはてて笑います。でも、夢は大きく、そして駄目だと思った時点で夢は叶わない、と私は真面目に思っているのです。精神一到何事か成らざらん、です!これから後30年間、100歳まで生きてチェロを続けたい。この30年は丁度私がチェロをやめていた期間です。その分を埋め合わせるつもりです。
よしおカザルスさん(70歳)/東京都/最近ハマっていること:チェロ
イメージ写真/(c)stokkete / fotolia
(編集室が文字の修正などをしています)
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