Q 中年時代に定期的な運動を行っていた人と、行っていなかった人とでは認知症発症率が違います。その差は次のうちどれ?
A 運動を行っていた人の発症率は、行っていなかった人の約1/3
B 運動を行っていた人の発症率は、行っていなかった人の1/2以下
C 両者の発症率に有意な差は認められない
認知症の予防方法としてもっとも効果が確実とされているのが「運動」です。中年期に「1日20〜30分の運動を週2回以上」行った人の認知症発症率は、運動しなかった人の1/2以下です。
答えはBです。
認知症は病状の進行が非常にゆっくりした病気で、発症するまでに20年以上かかる病気です。中年期に定期的な運動を行うことで、予防につなげることができます。もちろん、認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)の予防にもつながります。
ポイントは継続することです。認知症予防の研究チームが開発した認知症に効く有酸素運動があります。この運動を2年間、町の運動教室や家庭で行ってもらった高齢者グループ(運動介入群)と、行わなかった高齢者グループ(非運動介入群)の脳をMRIで調べたところ、大きな違いが見られました。運動を行っていなかったグループの脳は、認知機能に密接に関わりのある脳の萎縮が進んでいましたが、運動したグループの脳では萎縮は見られませんでした。
しかし、この調査には続きがあります。上記の運動介入群グループに運動介入をやめてから6か月後。再び検査してみると、脳が大きく萎縮し、非運動介入群と変わらない大きさに縮んでいたのです。この結果から、運動は継続して行うことが重要であることが明らかになりました。また、高齢者であっても毎日運動を行うことで認知機能を維持することができることもわかったのです。
認知症予防としてはウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が効果的です。高血圧や高脂質症など生活習慣病を予防することは、動脈硬化や脳疾患のリスクを減らし、それが認知症予防につながります。筋肉を鍛え、体幹や平衡感覚を鍛えることは健康な生活の質を高め、将来の転倒防止にもつながります。
中年期のなるべく早い時期に始めることが大切です。すでにMCIの人にとっても効果があります。有酸素運動に加え、感覚神経を鍛えるために筋力トレーニングも取り入れるといいでしょう。
認知機能の低下が見られるものの病的ではない、グレーゾーンの状態であるMCI。認知症は防げないといわれてきましたが、MCIの段階で正しく対処すれば、認知症へ進行するのを防げる可能性があります。 |
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あさだ・たかし 1955年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経科精神科、山梨医科大精神神経科、国立精神神経センター武蔵野病院精神科、筑波大学精神医学教授などを経て現職。認知症の早期診断法や予防、リハビリに携わり、MCIの啓蒙活動を積極的に行っている。
文/佐藤恵菜 イラスト/みやしたゆみ