辞書を1ページずつ読み続けて

9月の一次審査通過作文/「学びと私」作文コンテスト

ゆみちゃんさん(52歳)/神奈川県/最近ハマっていること:読書

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ゆみちゃんさん(52歳)/神奈川県/最近ハマっていること:読書

 保険会社で入力業務をしている関係で、日頃から様々な病名や医療用語と対面し、格闘をしている。胃潰瘍や大腸癌、椎間板ヘルニアなど見覚えのある漢字なら迷うこともなくパソコンのキーボードを軽やかに叩くことができる。しかし、20年近くこの仕事をしているにもかかわらず、今まで一度もお目にかかったことのない難読漢字が出てくることがしばしばある。すると、途端に私の手は鉛のように重くなりキーボードの上で固まってしまうのである。そして、2、3度ほど想像力を働かせて試し打ちをしてみるのだが、該当する読み方に辿りつくことはほとんどできずにいる。

 そんな時は「歩く生き字引」と呼ばれている温厚な上司にたずねることになる。だが、この上司は穏やかな口調で回答を教えてくれるのはいいのだけれど、一方で、自分を自慢するのが大好きで、その後、10分ほどはその自慢話に付き合わされることになる。おかげで、仕事が遅れてしまい残業する羽目になることが度々あるのが玉に瑕であった。

 この温厚な愛すべき上司が5、6年ほど前、一度だけ私がたずねた漢字を見て、目を細めながら「こんな簡単な漢字がわからないのか」と嘆くように言ったことがある。その漢字が「初産(ういざん)」であった。

 私は「初産」をどうしても「しょざん」としか読めず、上司にたずねたのだが、あとで同僚たちにこの話をしたところ大笑いされてしまった。おそらく、その場にいた十数人ほどの中で「初産」の読み方を知らなかったのは私一人だけだと思われたからだ。私は恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤に染めながら俯くしかなかった。

(このままではいけない。もう少し勉強しよう)

 その当時、40代半ばであった私は、一念発起すべく本屋で分厚い医療用語専門の辞書を購入し、「あ」から始まる辞書を一枚一枚読んでいくことにした。だけれども、内容を読んでも理解できないことがほとんどであった。が、とりあえずは「読み方さえ分かればいいや」との軽い気持ちで読んでいったのが良かったのか、読み進めていくうちに不思議と意味がなんとなくではあるが理解できるようになっていった。そうすると、辞書を読むのが楽しくなり、毎日少しずつではあるが私は分厚い辞書を開いては読み進めたのである。

 その結果、40の手習いではあったが、私の医療用語の知識は少しずつではあるが増えていき、今では上司に漢字の読み方をたずねることもだんだんと減ってきた。また、同僚たちから漢字の読み方をたずねられるまでになった。そんな時は少しばかり偉くなったような気になり、長々と得意げに話している自分がいた。

(これでは上司と同じではないか)

 と、近頃は自己嫌悪に陥りながら反省しているのである。

(作文の一部に編集室が文字の修正などをしています)

 

学びと私コンテスト

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