親の孤立が「子どもの貧困」を生む負の連鎖

森田明美東洋大学教授の語る「子どもの貧困」(その3)

  • 公開 :

26才の男性、Aさんは、小学5年生の時、児童養護施設に入所した。幼い頃は私立小学校に通うほど経済的に恵まれた家庭に育ったが、母親の父親へのDVがひどかったという。

小学2年生の時に父親が自殺し、母親の有り余るエネルギーが彼に向くようになり、ドリルを3分で解かないと叩かれるなどの教育虐待が始まった。

それは命の危険を覚えるほどで彼は何度も家出と警察による保護を繰り返し、小学5年生で児童養護施設に入所することとなった。

施設での生活は天国のようだった。しかし、どこか主体的に生きているという実感がなく、自分が何かを選択しできるようになるという思いや将来への希望を持つことができなかったという。

当時、児童養護施設は高校卒業とともに出なければならなかったが、Aさんは将来像を思い描くことができなかった。将来展望を抱けぬまま高校を卒業したAさんは、アルバイトをしながら自立援助ホームで将来を考える日々を送っていた。

ある時Aさんは、ある社会起業家が自分の夢を語るイベントに参加した。そこで彼は、周りの人と彼との決定的な違いを知った。ほかの人は皆、「自分はきっとできる」という自信を持っていたのだ。

そこでAさんは一念発起して大学進学を決意、周辺の人々に支えられて給付型の奨学金を得ることができ、無借金で大学を卒業、現在は希望の職につき、働いている。

携帯は贅沢か?「子どもの貧困」問題はなぜ炎上する?

Aさんの母親は、自身の母親(つまり彼にとっては母方の祖母)を含めた親族とも疎遠だったという。また、地域の中でも孤立していた

そのため、彼の置かれた境遇は周囲には気づかれることはなく、彼は家出を繰り返すしかなかったのだ。

親に対する援助というより、子どもの成長を補う援助を

このように、「子どもの貧困」といっても、経済的支援だけでは済まない場合が多くある。また、多くの場合、子どもの声を直接聞く形にはなっておらず、親を通して支援する形になっている。

しかし、親が生きる意欲をなくしている場合、家計を援助しても、親が子育てにその援助を使おうという意欲がなければ、おむつを替えよう、ミルクを与えようということには結びついていかないと、森田先生は言う。

そこで森田先生が考えているのが、世帯収入を補うというより、子どもが成長していくための最低ラインに注目して、子どもの力と親の養育力を足しても子どもの成長の最低ラインを割り込む時には社会的に様々な支援をし、最低ラインが維持できれば援助を止める、といった細かな支援をしていくことだ。

森田先生の考える支援の構造

たとえば親が病気になれば育児支援を足す、病気が回復して働けるようになれば支援を減らす、子どもが成長して自分で自分のことができるようになれば支援を減らし、入学費用など必要な費用が出てくれば支援する。

つまり、子どもの成長を見守り、一緒に親子の生活に寄り添うこと、単に親の貧困を救うのではなく、子どもの権利が保障され、一人ひとりがもつ最大限の可能性を具体化し成長していくために最低限必要なラインを見極め、適宜支援を足したり引いたりしていくものだ。

森田先生は、「子どもの権利に着目した継続的な支援が必要なのです」と語っている。

(次回「児童養護施設出身の男性が無借金で大学に行けた理由」)

*東洋大学では12月16日土曜日、「子どもの貧困の解決策を支援者と探る」と題したオープン講座を予定している。

森田明美
もりた・あけみ 東洋大学社会学部教授、東洋大学社会貢献センター長
子どもの権利を基盤にした児童福祉学を専門とする。数多くの自治体の子ども・子育て支援計画、次世代育成支援行動計画策定などにかかわり、東日本大震災をきっかけとした家庭環境や友人関係の変化が子どもたちの生活や心にどのような影響を与えているかについての現地での子ども参加型調査も行っている。

〔あわせて読みたい〕
携帯は贅沢か?「子どもの貧困」問題はなぜ炎上する?
母子家庭で「子どもの貧困」が進む日本ならではの事情
虐待で子供の脳にダメージ 3才は海馬、10才は脳梁に

まなナビは、各大学の公開講座が簡単に検索でき、公開講座の内容や講師インタビューが読めるサイトです。トップページの検索窓に大学名検索したいワードを入れたり、気になるワードを入れて検索したり、気になるジャンルをクリックすると、これから始まる講座が検索できます。

取材・文・写真(近影)/まなナビ編集室(土肥元子) 写真/beeboys/ fotolia

1 2

-教育・子ども, 教養その他, 自己啓発
-, , , , ,

関連記事