自信をくれた先生のひと言

9月の一次審査通過作文/「学びと私」作文コンテスト

紗菜さん(39歳)/岩手県/最近ハマっていること:絵本の読み聞かせで子ども達を笑わせること

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紗菜さん(39歳)/岩手県/最近ハマっていること:絵本の読み聞かせで子ども達を笑わせること

 三歳から習ったピアノを、短大卒業の二十歳でやめた。社会人になり、実はピアノよりやりたいと思っていた、バレエのサークルに通い始めた。 “田舎じゃバレエ教室なんてなかったもんなぁ”

 わかってはいたが、バレエもピアノと一緒で、小さい頃からやらないとなかなか身にならない。

「ちょ、ちょっと、目が回ってます…」

 回転すれば壁が回り、必死になるほど左右がわからなくなる。初心者の大人にピアノを教える時、“ドレミ”と三つ音を弾くだけでも指がもつれ、途方に暮れるのと同じ状況だった。おせじにも、美しいとは言えない姿。しかし、レオタードに巻きスカート、ピンクのバレエシューズと恰好はばっちり。主婦中心のサークルはいつも笑いが絶えず、私は楽しくて仕方なかった。

 ある日のレッスンの時、先生が言った。

「7月最初の日曜日に、町内の文化祭に出ます」

みんなのモチベーションを上げるため、上手い下手に関わらず全員出るという。憧れのバレリーナのように、舞台で踊るのだ。

「頑張らなくちゃ!」

 スイッチが入った私に、かつてピアノの先生に言われた言葉がよぎった。

 高校に入り、ピアノ専攻で音楽を学び始めた時のことだ。

「あなた、電子ピアノでやってきたんでしょう? 今から頑張ったって、みんなを越えられないから。追いつきたかったら、人の三倍弾きなさい。みんなが三時間なら、あなたは九時間。左手におにぎり持ったら右手が練習できるでしょう」

 人と同じことをしていたら越えられない、それは何だって同じ。私は、通っていたスポーツジムのスタジオを個人で借りて練習することにした。一時間700円。ガラス越しに、筋トレ中の人達がチラチラと不思議そうに見ていた。どう見ても学生じゃないしどう見てもプロじゃない女性が、鏡の前で一人で踊っているのだ。それでも私は気にしなかった。自分が納得いくように踊りたかった。

「ずいぶん変わったわね、自主練してきた?」

ある日のレッスンで先輩主婦が驚いたので、ジムのスタジオを借りた話をした。そこまでする?と感心したような呆れたような顔。しかし、ストイックにやることは、長年のピアノの練習で身についた当たり前のこと。

 文化祭の集合写真には、ふわふわのエメラルドグリーンのチュチュに本格的な舞台メイクで満足げな私の笑顔が写っている。

 今は子育てが忙しく習い事はちょっぴりお休み中だが、“人の三倍やるのが当たり前”という学生時代にできた基礎があれば、何だってできそうな気がする。

 先生、ありがとう。

 

(作文の一部に編集室が文字の修正、タイトル付けなどをしています)

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