脳の働きをコントロールする日常生活になじみ深い物質は?

【連載】認知症、ならないために:こぼれ話編 その2

Q 脳の働きをコントロールする神経伝達物質には、日常生活になじみ深いものもあります。次のうちどれでしょう?

a コレステロール
b 乳酸菌
c グルタミン酸

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Q 脳の働きをコントロールする神経伝達物質には、日常生活になじみ深いものもあります。次のうちどれでしょう?

a コレステロール
b 乳酸菌
c グルタミン酸

脳科学の発達により、脳の中で情報がどのように伝達されているのか、その仕組みが解明されつつあります。ここで注目していただきたいのは、脳の神経細胞に情報を伝える「神経伝達物質」です。

人間の思考や感情をコントロールするのも神経伝達物質です。脳疾患の薬も、神経伝達物質の働きを利用したものが多く、認知症の予防や薬の開発でも注目されています。

神経伝達物質には100種類以上あります。何か特別な物質のように思われるかもしれませんが、中には日常生活になじみ深いものもありまます。

問題の答えはc、グルタミン酸です。

グルタミン酸といえば、料理に欠かせないだし汁の「うまみ成分」として知られていますね。昆布をはじめとする海草やいわし、トマト、白菜などに豊富に含まれています。体内で生成されるアミノ酸のひとつです。

認知症、ならないために:こぼれ話編 その2

グルタミン酸は感情の伝達、前頭葉システム、記憶回路などに関与する代表的な神経物質です。大脳皮質、記憶をつかさどる海馬などで重要な情報伝達を担っています。

神経細胞と神経細胞をつなぐ連結部をシナプスといいます。認知症患者の脳では、シナプスとシナプスの間にグルタミン酸が過剰に発生し、脳の働きを妨げていることがわかってきました。シナプス間でグルタミン酸の濃度が高まることに問題があるようです。こうした研究をもとに、認知症の薬の開発が進められています。

グルタミン酸は神経伝達物質として脳機能を活発化させるだけではありません。体内のアンモニアの解毒を促し、利尿を促す作用もあります。そのほか、脂肪の蓄積の抑える、肌の保水力を高めるなど、アンチエイジングにも重要な役目を果たしています。おいしく食べ、グルタミン酸をしっかり摂り、認知症の予防につながれば、一石二鳥、いえ、三鳥ぐらいになりますね。

(ひとくちメモ)◎キレる老人が増えた?
最近、「すぐキレる」老人が増えた、などと言われます。冷静さを保ち、感情をコントロールするためには脳内のホルモンや神経伝達物質のバランスが重要です。認知症によって前頭葉の機能が衰えてくると、感情をコントールすることがむずかしくなります。人によってはすぐカッとする、激怒する、キレやすくなると考えられます。

(「認知症、ならないために」は毎週日曜15:00更新予定)

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■監修■伊古田俊夫
いこた・としお 1949年生まれ。1975年北海道大学医学部卒。勤医協中央病院名誉院長。脳科学の立場から認知症を研究する。日本脳神経外科学会専門医、認知症サポート医として認知症予防、認知症の地域支援体制づくりに取り組んでいる。著書に『40歳からの「認知症予防」入門』(講談社)など。

[伊古田先生からのメッセージ]→「認知症予防とは、認知症を『先送り』することです」
認知症を「予防する」ということは、「一生、認知症にならない」ということではありません。認知症の原因は、今もわかっていないからです。確かなことは脳の老化だということ。ですから認知症を100%予防することはできませんが、発症する年を「遅らせる」ことはできます。いわば認知症の先送り。これが予防策をみなさんに広く知ってもらいたいと願う理由です。

文/佐藤恵菜 イラスト/みやしたゆみ

 

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