職場で落ち込まないための心の持ち方とゲス上司回避法

杉山崇 神奈川大学人間科学部教授の「大人の人間関係論」その2@神奈川大学

「職場のストレスのナンバーワンはずーっと人間関係」という神奈川大学人間科学部教授の杉山崇先生。前回の記事「部下のやる気をすっかり奪う上司の何気ない一言とは」では、部下の“被受容感”によって、上司の励ましや忠告が逆効果になる事例をあげた。具体的には「もっと元気にやろうよ」「大した問題じゃないよ」「相談しにこいよ」などの言葉だ。今回は面倒なオレオレ上司やマウンティング部下・同僚の存在を“自己愛”で読み解く。

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「大人の人間関係論」講座。皆が関心ある話題だけに質疑応答は盛り上がる。

「職場のストレスのナンバーワンはずーっと人間関係」という神奈川大学人間科学部教授の杉山崇先生。前回の記事「部下のやる気をすっかり奪う上司の何気ない一言とは」では、部下の“被受容感”によって、上司の励ましや忠告が逆効果になる事例をあげた。具体的には「もっと元気にやろうよ」「大した問題じゃないよ」「相談しにこいよ」などの言葉だ。今回は面倒なオレオレ上司やマウンティング部下・同僚の存在を“自己愛”で読み解く。

赤ちゃんはよちよち歩くだけでほめられるが

「“自己愛”は、自分を大切にしようと言う気持ちのことで、社会的な生き物である人間が生きるために必要なものです。たとえば赤ちゃんの時にはよちよち歩くだけで『よく歩けたねー!』とほめられます。この賞賛される体験を心理学では、周りの人たちが自分のいいところを映し出す鏡になってくれるということから、“ミラーリング”(鏡映体験)と呼びます。子供時代はよちよち歩いてるだけでかわいいのでミラーリングをたくさんしてもらえ、守ってもらえるのです。でも大人になるともう守ってもらえない。自分で自分の自己愛を支えていかなければならないんです」

自己愛について研究したのは、ハインツ・コフート(1913年-1981年)というオーストリア出身の精神科医だ。ある患者の話を聞いていたコフートは、あれこれ考えて「あなたはこう感じてるんでしょう?」と言えば言うほど患者が不機嫌になることに気づく。逆にコフートがひたすら黙ってただその患者の話を一生懸命聞いていると、その患者はとても喜ぶ。つまりその患者は助言をしてほしいのではなく、ただ話を聞いて自分の存在価値を確認してくれることを望んでいるのだ。これが自己愛の強い人たちの一類型だ。杉山先生は、自己愛が強すぎると、人間関係をかたちづくっていくことが難しくなるという。

ほかのやつらよりすごいんだという誇大自己

自己愛が強すぎると、自分はすごいんだと誇大自己を抱くようになります。これが自己愛性パーソナリティ障害です。とくに誇大自己を抱きやすい人は、強いコンプレックスを抱いている人。コンプレックスの強い人にとって、自分はすごいんだと思うことは、とても強力な鎮痛剤です。ほとんどのコンプレックスは人間関係でつくられます。誰かに負けたとか、いじめられたとか。人間関係・社会経験で自己愛についた傷は、人間関係の中で癒すしかない。それが高じると、ほかのやつらよりすごいんだという幻想を抱く厄介な人になっていきます」

杉山先生によれば、自尊心は人間にとって必要だが、「自分が人並みには価値がある」という程度の誇りで十分だという。しかし、コンプレックスという自己愛の傷を癒そうと、過度に誇大自己を抱いてしまう自己愛性パーソナリティ障害の人は、誇大自己の幻想から離れられなくなり、“迷惑な人”になる例が多い。

ところがそうした自己愛性パーソナリティ障害の人は意外に、社会的に成功しているケースが多いのだという。

上司が自己愛性パーソナリティ障害の場合の対処法

「自己愛性パーソナリティ障害の人は誇大自己を現実の形にしようと、迷いなくがんばります。この誇大自己は現実にすべきなんだ、とその一点に全然迷いがないんです。誰かの迷惑になるとかいう気遣いもない。迷いなく頑張れば一番結果が出やすいのですよね。その結果、社会的に成功していることがわりと多いのです。しかし、そういう人が管理職になると、“困った上司”になってしまうのです」

いるいる、そうしたオレオレ上司。それに、私はこんなにできるのに!と事あるごとに声高に言うマウンティング部下や同僚。構わぬ一念で突き進み、周囲を振り回し、結果として出世していく。周りはできるだけ振り回されないように気をつけるだけだ。そうした人と付き合うにはどうしたらよいのだろうか。

「アドバイスはひとつ、できるだけ逃げましょう。立場的に逃げきれない時は心理的に逃げましょう。自己愛性パーソナリティ障害は、誇大自己という幻想しか見ていませんから、まともに付き合おうとしても非常に難しいです。上司がそうした人なら、その態度や言葉を真に受けない。こちらはこちらで別の幻想を作って逃げる。それくらいしたほうがいいです。彼らは変わりません。成功もしていると、自分の幻想が正しい、このやり方が正しいと信じています。自己愛性パーソナリティの人の中には調子がよすぎて失脚する人もいるので、それを待ってもいいかもしれません」

健康な自己愛を持つために大事なことは

コンプレックスは誰にもあるもの。自分は自己愛性パーソナリティ障害ではないと信じたいが、職場の人間関係の中で適度な自尊心を維持するというのもまた、難しい。私たちが健康な自己愛をもつにはどうしたりいいのだろうか。

「自尊心を傷つけられると私たちは誇大自己に走ってしまう可能性があるので、私たちの自尊心をケアすることが大事です。自尊心に強く影響しているのは、“被受容感”です。受け入れられている、認められていると感じること。失敗をしてしまったが、見放さないでいてくれる人がいることを、ありがたいと思うことが大切です。

50才くらいになると自分の限界がわかってきます。自分よりもっと活躍してる人とか成功している人と比べて、自分の限界に落ち込んだりします。しかし、そこに執着しすぎると、誇大自己がほしくなってしまいます。こんな自分でも大事にしてくれる人がいる仲良くしてくれる人がいるそう思うことで自尊心を守ることができます。周りにいる人を大事にして、自分が何をしたら多くの人に喜んでもらえるのかと考えながら仕事をしたり生きていくことで、救われるのです。

〔あわせて読みたい〕
部下のやる気をすっかり奪う上司の何気ない一言とは

◆取材講座:「メンタルヘルス・マネジメント講座「大人の人間関係論」vol.3職場の人間関係」(神奈川大学・みなとみらいエクステンションセンター(KUポートスクエア))

文・写真/まなナビ編集室

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