民俗学は過去から現在にかけての壮大な旅
「人形(ひとがた)を民俗学的に見ると、4つの側面があります。
(1)玩具。人形を「かわいい」と感じるとき、私たちは玩具として見ています。
(2)聖像。仏像やキリスト像など宗教と絡んだ像を思い浮かべるとわかりやすいですね。
(3)呪具(じゅぐ)。呪いを込めてわら人形に釘を打つ。こんなときに使われるのは呪具としての人形です。
(4)祓具。今回取り上げた流し雛のように、厄払いのために使われる人形のことです。
今回取り上げた『源氏物語』に見られる人形に対する人々の価値観のように、どんな古典作品にも、必ず現代と響き合う要素があります。でもまったく同じ形をしているわけではない。現在に伝わる民俗伝承のルーツを探る上で、古典はとても貴重な情報源なのです」
民俗学研究では、しきたりやならわしの現場で見学調査することももちろん重要だが、歴史の記録や考古学的な遺物を参照することも欠かせないと新谷先生は語る。また、こうした古典作品に描かれる季節の折々の行事や作中人物の行動や思いなどをから、しきたりやならわしの意味を読み解くのも、民俗学研究の真髄に触れるものだという。
「過去から現在にかけて様変わりする動き(movement)を総合的に研究するのが民俗学です。それはさながら壮大な旅のようで、文学や歴史学、考古学を『静止画』とすれば、民俗学は『動画』のようなものともいえるでしょう。民俗学というフィルターを通すことで、古典がもっと立体的に楽しめるようになると思いますよ」
逆に、文学の専門家では読み取れない作品の背景に、民俗学者だからこそ気づくこともある。
「ここだけの話、高名な文学研究者がつけた古典の注釈も、表面的な言葉の解説に留まっていることもあります」
『古事記』や『源氏物語』など一生に一度は読んでおきたい古典作品は多い。ただ読むだけでなく、その背後に潜む習俗などにも気をつけながら読むと、当時の人々の思いがもっと立体的になって浮かんでくるという。
〔関連講座〕民俗学から読む古典 (後期)
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取材講座:「民俗学から読む古典」(國學院大學オープンカレッジ・渋谷キャンパス)
文・写真/小島和子(講義風景)、SVD
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