そして、ダンスによって示す方角は、太陽の位置。太陽を真上にして踊り、仲間はそのダンスがいつ踊られたかで餌の場所を把握する。例えば今ダンスを踊ったばかりなら同じ方向だけど、1時間前に聴いたダンスなら、15度西に傾けた方向に飛んでいくとのこと。
コオロギでも「パブロフの犬」が
昆虫の脳みそって、もっと単純かと思っていたが、そうでもないらしい。ミツバチがものごとを理論的にではなく、反射神経的に理解をしているのだとしても、齟齬のないカタチでコミュニケーションが成立する方法と脳みそを手に入れているのである。しかも、人間の10万分の1しかないニューロンで。
「パブロフの犬」という有名な実験がある。餌をあげるのと同時にベルを鳴らしていたら、ベルを聞いただけでよだれを出し始めちゃった空振り犬の話。これを「古典的条件付け」というそうだけど、同じことをコオロギでもやれるのだそうだ。
ニオイや色、形と、条件付けのための餌や罰を与えて、その後、行動がどう変わるかを確かめる。そして、こうした実験からは、脳のどんな物質が、どんな判断を担っているのかがわかる。
「昆虫の脳内にはオクトパミンという脊椎動物にはない伝達物質があります。これは人間の脳にあるノルアドレナリンとよく似た構造をしていて、その受容体もまたよく似た形なんです。生物の行動の調査や遺伝子の研究の結果、ノルアドレナリンとオクトパミンは元々は同じ役割だったものが変化して、別の物質になったと考えられます」と水波先生は言う。
つまり、私たちの脳と昆虫の脳は、今できることは大きく違ったとしても、その元ネタは同じだったと考えられているってことらしい。
研究者の方々は大量の実験を繰り返し、数多くの失敗を乗り越えて、その中で蓄えられたデータが、イノベーションの種となっていく。そして、そのごくごく一端ではあろうけれども、こうしたセミナーを通して私たち一般人が、最新の研究に触れることができるというのは、何とも贅沢な経験である。
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〔関連講座〕「バイオミメティクス市民セミナー」は毎月開催。詳しくはコチラから。
〔大学のココイチ〕 北海道大学で売っている黒板消しに心惹かれて思わず買ってしまいました。
取材講座データ | ||
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バイオミメティクス・市民セミナー第62回「昆虫の学習と微小脳:ヒトの脳のしくみとは違うのか?」 | 北海道大学総合博物館 |
文/和久井香菜子 写真/和久井香菜子、Adobe Stock