日本人の平均寿命は香港についで世界第2位
日本人はいったい何才までいきるのだろうか。
2017年7月、厚生労働省は平成28年の「簡易生命表」を発表した。それによると、日本人の平均寿命は男性80.98才、女性87.14才で過去最高となった。国・地域別比較では、香港についで世界第2位である。
平均寿命とは0才時における推定余命年数だ。つまり、オギャアと生まれた赤ん坊が何才まで生きるかという期間の平均である。しかし、出生した人の半数が何才まで生きるか、については、また別の数字がある。それが寿命中位数だ。
女性の約半数が90才まで生きる時代に
寿命中位数は出生者の半数が生存すると期待される年数のことで、平成28年調査では男性83.98年、女性89.97年である。つまり半数の人が、平均寿命よりおよそ3年、長く生きることになるのだ。
さらにここから、特定年齢まで生きる率を割り出すと、65才まで生存する率は、男性89.1%、女性94.3%、75才まで生存する率は男性75.1%、女性87.8%、90才まで生存する率は男性25.6%、女性49.9%となっている。90なんて、と思っていても、男性の4人に1人、女性の約半数が90歳まで生きるというのだから、これを想定して生活していかないといけない。
問題は健康寿命。これで人生の質が決まる
しかしどんどん延びる寿命に対し、追いついていないのが健康寿命だ。これは、寝たきりや認知症といった健康上の問題がなく、元気に生きられる期間をいう。これが驚くほど低いのである。
2015年の調査であるが、男性の健康寿命は71.11才、女性の健康寿命は75.56才。平均寿命とも10年内外の開きがある。つまりピンピンコロリは夢のまた夢だということだ。
何が健康寿命を縮めるのか
平均寿命と健康寿命の差が、個々人の人生の質や、医療費や介護費の増大にも大きく影響を与える。とりあえず国の財政事情は措いておいても、人生最後の日までいかに健康に過ごせるかが、個々人にとって、また家族にとって、どれだけ大切なことかは説明するまでもない。
武蔵野大学の公開講座「知っておきたい漢方いろは」は、漢方の話のみならず、古今東西の事例から、生活の質を高めて健康に生きる知恵を学ぶ講座だったが、その最終回は「メタボ」がテーマだった。講師を務める、今春同大薬学部教授を退任したばかりの油田正樹客員教授は、「メタボリック・シンドローム」が「ドミノ倒し」のように生活の質(クオリティ・オブ・ライフ、QOLとも)を著しく低下させると警告する。
40代以上の男性2人に1人がメタボあるいはメタボ予備軍
メタボリック・シンドロームとは、直訳すれば「内臓脂肪症候群」。ウエストサイズが男性は85㎝以上、女性は90㎝以上ある人で、以下に挙げる〈脂質代謝異常〉〈糖代謝異常〉〈高血圧〉この3つのうち2つ以上があてはまる場合、メタボリック・シンドロームと診断される。女性のほうがウエストサイズが大きめに設定されているのは、女性は皮下脂肪が多いからだ。
〈脂質代謝異常〉以下のいずれか、または両方
中性脂肪(TG)値が150㎎/dl以上
HDLコレステロール(善玉コレステロール)値が40㎎/dl未満
〈糖代謝異常〉
空腹時血糖値が110㎎/dl以上
〈高血圧〉以下のいずれか、または両方
最大(収縮期)血圧 130mmHg以上
最小(拡張期)血圧 85mmHg以上
メタボおよびメタボ予備軍は、男女ともに40代以上ではグンとあがり、男性の2人に1人が該当するとさえ言われている。
そして、このメタボになるにつれて、次々と病気が起こり、まるでドミノ倒しのように悪くなっていくことを、メタボリック・ドミノと呼んでいる。
健康寿命を縮めるメタボリック・ドミノ
食の欧米化と運動量の低下など、生活習慣の乱れが肥満を引き起こす。一度肥満になり始めると、どんどん太り、内臓脂肪をためこんでいく。そして、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を招いていき、動脈硬化も起こり、腎臓障害や脳血管障害、心臓病などを発症していく。これがメタボリック・ドミノだ。ドミノ倒しのドミノと同じで、一度倒れたドミノをもう一度起こすことはできない。
「内臓脂肪は腸間膜の血管のところにつきます。内臓脂肪がたまると、インスリンを効きにくくするTNF-αなどのよくない物質が分泌されて、糖尿病のリスクが増していきます。そして糖尿病になり、数々の合併症を引き起こしていきます」
「現代のメタボの原因の一つは食の欧米化ですが、江戸時代の健康指南書『養生訓』(貝原益軒著)でもこう言っています。
養生の術は、努むべきことをよく勤めて、身を動かし、気を巡らすを良しとす。
努むべきことを勤めずして、臥す事を好み、身を休め、怠りて動かざるは、それ養生に害あり。
久しく安座し身を動かさ座れば、元気巡らず食気滞りて、病起こる。
殊に臥すことを好み眠り多きを忌む。食後には必ず数百歩歩行して、気を巡らし食を消すべし。眠り臥すべからず。
今よりずっと栄養状態の悪かった江戸時代であっても、貝原益軒は体を動かす必要性をこのように説いています。適度な運動と食生活の改善は、健康寿命を延ばすために必要です」
運動療法や食事療法をしてもなかなか体重が落ちないときには、漢方の助けを借りることもありうる、と油田先生は言う。
人生最後の10数年間を、寝たきりで過ごすか、それとも元気で過ごすか。その岐路のひとつが、メタボリック・ドミノに飲み込まれるかどうか、なのだ。
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文/まなナビ編集室 写真/(c)kai / fotolia