『大人の学び直し』を妨げる逆風とは
大人が勉強を志すと、次のような逆風が吹くと、山川先生は指摘する。
(1)勉強する時間の確保が大変。
(2)勉強以外にもやるべきことが多い。
(3)勉強すること自体の共感が得にくい。
そしてもうひとつ挙げるとすれば、(4)体力が若い時よりもなくなっている、ということだ。山川先生はそのことを事あるごとに指摘しているという。
「身もふたもないのですが、みんな年を取ってきているんだから、体力を考えろ、体力を過信するなと口を酸っぱくして言っています。いくらやりたいことがたくさんあっても、体力が追いついていかないとこなせないのです。学びには体力が必要です」
この3つ、いや4つの中でも、社会人皆が直面するのが時間の問題だ。仕事だけではない、家族がいれば家事の時間も必要だし、高齢者がいれば介護の時間も必要になってくる。学びの場が自宅や仕事場のそばならまだいいが、離れた場所ならそこへ行くためのアクセス時間も必要だ。
『大人の勉強≒時間管理』なのである。ではどのようなことに注意すれば、私たちは勉強時間を効率的にコントロールできるようになるのか。
1.見込み時間と現実にかかる時間は違う
「社会人は時間の制約が大きいので、自分の時間を制する者が成果を生む、と考えてください。時間を制するためには、学ぶ本人が、アスリート(選手)とマネージャー(管理者)の一人二役をこなす必要があります」
ここで知っておきたいのが、次のこと。
「見込み時間と現実にかかる時間は違う」
決められた時間より遅れているのに、さも間に合うかのように返答することを「蕎麦屋の出前」というが、勉強をあと30分で終わらせようと思っても、30分では終わらないことが多い。始まる時間は決められても終わる時間が決められない。逆にいえば、終わりの時間が予定どおりにいけば、だいたいのことがうまくいくという。
2.「すきま時間活用」は難しい。するなら準備が必要
社会人がいったん『学び直し』を志すと、まず最初に考えるのが「すきま時間で学ぶ」ことだ。ところがここに大きな落とし穴がある。
「すきま時間活用は案外難しい」
「どんな勉強法の本にも必ず書かれているのが、すきま時間の活用です。仕事などでまとまった時間が取れない社会人にとって福音とでもいうべき言葉ですが、これがとても難しいのです。すきま時間というのは確かに探せばあります。問題はその時に、勉強のモチベーションがアップするかどうかなのです。
すきま時間を効率的に活用するなら、何をするかをあらかじめ決めておき、パッと切り替えられるようにすることが大切です」(山川先生)
学びはランニングに似ている。助走がいるし、走った後は呼吸を整えることも大切だ。いきなり短時間で集中しょうとするなら、それなりの準備が必要になる。
すきま時間の活用が難しいのなら、いったい何時間くらい続けて学べば「集中して学んだ感」が得られるのだろうか。
3.まとまって勉強するなら3時間が目安
仕事をしている社会人が、一つの企画の書類を仕上げるにはどれくらいの時間が必要だろうか。ものにもよるが、だいたいの人が「まあ3時間くらいあれば……」と答えるはずだ。まとまって勉強する時にも、それくらいの時間が必要だという。
「まとまって勉強したいときには3時間を目安とする」
「3時間あればおおよそ映画が1本から2本、ドラマなら3回分が見られます。軽い入門書はだいたい3時間くらいでさらっと読めるように作られています。何かを集中的にするのに、3時間はちょうどよい時間なのです。
逆に3時間を超えてしまうと、集中力や体力が続かなくなります。多くの試験や講演などが長くても3時間に設定されているのはそのためです」
学ぶ時間を管理する3つのコツとは
もちろん以上はあくまでも一般論。すきま時間でもキュッと集中できる人もいれば、だらだら半日くらいかけて学びたいという人もいる。しかしすべてに共通するのは、『大人の勉強≒時間管理』ということだ。
うまく時間管理して学んでいくためには、次の3つを心がけたほうがよいと、山川先生は言う。
(1)無理な計画は禁物。
(2)計画には必ずバッファー(緩衝)を入れる。
(3)捨てる、削る、飛ばすが、学生の頃よりも重要。
学ぼうと思った時点で、あなたはほかの人より前を歩いているはずだ。その意志を実行に、実行を結果に結びつけるために、うまく時間管理をして無理なく学ぶ術を身につけよう。
次回は「心理学経済学が教える、いやいや学んでも伸びない理由」(3月26日公開予定)。
やまかわ・ともこ 長岡大学経済経営学部教授
1995年新潟大学歯学部卒業、1996年歯科医師免許取得、1999年博士(歯学)。その後、初級システムアドミニストレータ―、医療情報技師、メンタルヘルス・マネージメントⅡ種・Ⅲ種など、さまざまな資格試験に合格、医学から心理学まで幅広く研究し、2008年より現職。医療情報システムの活用や医学・心理学に根ざした能力開発が主な研究テーマである。
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