大人の学び直しは甘くない。勉強する前に見極めたい3つのモチベとは?

大人の学び直し入門(その1)@長岡大学

「大人の学び直し」が大ブームだ。しかし、能力開発を研究している長岡大学経済経営学部教授の山川智子先生は、「『大人の学び直し』には学生の時の勉強とは違う難しさがある」と言う。山川先生自身、歯学部出身の歯科医師免許ホルダーでありながら、ITやメンタルヘルスにかかわる資格を取得するなど、これまでさまざまな学びを経験してきた。「大人の学びは逆風だらけだが、その中を進む方法がある」という山川先生に、その極意を訊く。(3回連載の1回目)。

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大人の学びは甘くない (c)sebra/Fotolia

「大人の学び直し」が大ブームだ。しかし、能力開発を研究している長岡大学経済経営学部教授の山川智子先生は、「『大人の学び直し』には学生の時の勉強とは違う難しさがある」と言う。山川先生自身、歯学部出身の歯科医師免許ホルダーでありながら、ITやメンタルヘルスにかかわる資格を取得するなど、これまでさまざまな学びを経験してきた。「大人の学びは逆風だらけだが、その中を進む方法がある」という山川先生に、その極意を訊く。(3回連載の1回目)。

「自分は頭が悪いから……」と考えると能力が発揮できない

社会に出て会社で働きながらも、キャリアアップのために学び資格を取ろうと考えている人は多いはずだ。しかしその気持ちにブレーキをかけるのが、「私は頭が悪いから無理かも……」という思いだ。

さまざまな資格試験の合格基準点は、たとえば簿記が7割程度、気象予報士が8割程度、医療系国家試験でも、ものによっては6割程度だという。合格するためには、問題傾向をきちんと調べ、正しい受験勉強をすることが大事で、参考書に書いてあることを全部覚える必要はない。自分の頭の良し悪しに悩んだりするくらいなら、どうしたらその合格基準点に達するか効率を考えたほうがよいという。

「頭の良し悪しについて自分なりに定義もしないで、覚えたことをすぐ忘れてしまう自分は頭が悪いのではないかとコンプレックスを抱くのは、非常にもったいないだけでなく、能力が出せない状況に自分でもっていっているのです。能力を発揮するには、まず自分の気持ちをコントロールできていることが大切です。

ただでさえ、社会に出てから学び直すということは、逆風の中で進むような困難さを伴うことなのです。学ぶと決意するだけでも立派なことなのですが、本当に学ぼうと思ったら、頭の良し悪しに悩むより先に考えることがあります。それは、学ぶモチベーションのベクトルを自覚しているかどうか、です」(山川先生)

あなたの学びのベクトルはどこに向いている?

大学までの学びと、社会に出てからの学びの決定的な違いは、学ぶことが本分だという大義名分があるかないか、だと山川先生は言う。

学生であれば、何を勉強していてもそれだけで「偉いね」とほめられるが、社会人の場合は「学んでいる」と聞くとまず「なぜ?」とその理由を訊かれることが多い。もちろん他人の目を気にする必要はないが、何かを学ぼうと思う時には、自分の中にも「なぜ私はこれを学ぶのか」という問いかけが生まれるはずだ。

そこで山川先生は、自分の中にある優先順位をはっきりさせるために星を付けてチェックしてみることを薦める。「学びのベクトル星付けチェック表」だ。大人の学びのモチベーションはおおよそ次の3つに分類されるという。

1.社会:☆☆☆☆☆
2.経済:☆☆☆☆☆
3.自分:☆☆☆☆☆

《社会》は社会と自分のかかわりのなかで何かを達成したいというモチベーション、《経済》はズバリ経済的な実利を求めるモチベーション、《自分》は自分の内面を豊かにしたいというモチベーションだ。この3つはどれも人生で必要なもの。学びのモチベーションを考える時、このうちのどれかというより、2つか3つが複合・混在しているのが普通である。

「『おとなの勉強』では、自分自身の潜在的なニーズを的確にとらえることが何よりも重要です。これは、どう効率的に学ぶかといった勉強方法よりも、はるかに大事なことで、それを見据えないと、時間・環境・体力といった自分の資源を最大限に活用することができないのです」(山川先生)

では、それぞれのモチベーションについて考えてみよう。

《社会》がモチベの人は、それなりに覚悟が必要

「純粋に偉くなりたい!勝ちたい!」
「周囲からすごいと思われたい!」
「より高度なものに挑戦したい!」

「……だから学びたい」という人に通底しているのは、「社会の中で自分の能力の証としての努力の成果がほしい」という思いだ。キーワードは「地位」「名誉」「難関資格」「昇進」「学位」「受賞」「達成感」などである。社会人だけでなく、大学受験などもこの範疇に入るだろう。また、熱中する趣味があり、その世界の第一人者を目指すという人もここに入る。

このベクトルは一般的にハードルが高く、覚悟が求められるケースが多い。

《経済》がモチベの人は、費用対効果の検証が必要

「とにかくお金を儲けたい!」
「豊かな生活を送りたい!」
「安定した収入を得たい!」

「……だから学びたい」という人は「学んだ結果が就職や収入増につながる」という期待感が学びへの意欲となっている。キーワードは「収入」「資格」「就職」「独立」「起業」「安定」「副業」などだ。職業に直結する資格もあれば、株式投資の勉強などもある。

このベクトルは実利に結びついやすいだけに魅力的だが、その分、学んだ後に費用対効果の検証をしたほうがよい。

《自分》がモチベの人は、じつは一番モチベを保ちにくい

「自分の人間的な魅力を高めたい!」
「満ち足りた人生を過ごしたい!」
「もっと教養を深めたい!」

「……だから学びたい」という人の中には、学びそのものに意義を見出している人もいれば、仲間を作りたいという人も、そもそも熱中できる学びの対象を探しているという人もいるだろう。キーワードは「自己実現」「趣味」「教養」「人生」「内面」「成長」「仲間」などだ。山川先生によれば、モチベの維持が一見たやすそうに見えて、じつは一番難しいのが、この《自分》がモチベのパターンだという。それはゴールがあいまいで、可視化できないから。

その中で「やりたい」という気持ちをどこまで持ち続けられるかが、このベクトルの最も難しいところだ。

最後にもう一度、自分の学びのモチベーションを☆で示してみよう。あなたの目標はどこにあるだろうか。

1.社会:☆☆☆☆☆
2.経済:☆☆☆☆☆
3.自分:☆☆☆☆☆

次回は「学びの失敗は時間管理の失敗。学ぶ前に知るべき3つの鉄則」(3月24日公開予定)。

山川智子
やまかわ・ともこ 長岡大学経済経営学部教授
1995年新潟大学歯学部卒業、1996年歯科医師免許取得。1999年博士(歯学)。その後、初級システムアドミニストレータ―、医療情報技師、メンタルヘルス・マネージメントⅡ種・Ⅲ種など、さまざまな資格試験に合格、医学から心理学まで幅広く研究し、2008年より現職。医療情報システムの活用や医学・心理学に根ざした能力開発が主な研究テーマである。

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