多数決は勝者と敗者をつくる
語られるエピソードはどれも、住民の顔が浮かぶようなものばかりだったが、とくに心に残った2つのエピソードを紹介しよう。
ひとつは、高台に移転後の、自力再建住宅と災害公営住宅の区割りを決めていくときのプロセス。住民ワークショップで、候補として挙げられた案は3つあったが、どれも一長一短あって決まりそうにない。
「その案だと山側が暗くなるから心配」
「これだと完全に分断されているようだ」などなど。
なかなか合意案がまとまりそうにないなか、「4案目として専門家が良いと思う案をつくって欲しい」として、4つの案を作成し、改めて持って行って説明していると、途中からザワザワしてきて、「これだな」「うん、そうだな」などと、言葉にならないつぶやきが聞こえてきて、説明を終えるときには、決定という流れになったという。
「この町は知っていたんですよ、多数決を取ってしまうと勝者と敗者ができてしまうということを。長く集落運営をしているからこその知恵だったんです」という手島先生の言葉に、思わず膝を打ってしまった。
もう一つは、「誰がどこに住むか」という問題。住民にとっては大問題で、この合意形成に失敗した他地域では大量の離反者が出たという。手島先生たち建築家支援チームは一か月悩んだ末、たった3つの質問に答えるアンケートをとることにした。
「そこで決まったとすれば大いに満足できそうな宅地はいくつありますか」
「そこで決まったらある程度満足できそうな宅地はありますか」
「絶対ここはいやだという宅地はありますか」
このアンケートのポイントは、該当する宅地を幾つもあげてもらい、それに第一希望や第二希望をつけなかったところだという。
「全員が、「ある程度満足」以上のところに入れるように調整しました。でも、「大いに満足」のところに入った人は数件しかありませんでした。だから、もし自分がそうだとしても絶対言わないでくださいと言いました」
手島先生は、「ある程度みんな満足したからよかったね」というシナリオを描いていたそうだ。ところが蓋を開けてみると、「これは奇跡でねーでか!」と住民が言うほどみんなが大満足の結果に。誰一人脱落することなく、高台移転したのだ。
住民の思いとサポートするプロ集団
北上町は震災や津波で家を奪われるという深刻な事態に陥った。しかし、手島先生が語ったそこから立ち上がって、失われた住環境をもう一度作り上げようとする人々の思いは、静かな感動を呼んだ。しかも、高齢者の方々がそれをなしとげたのである。そこには、皆で再び一緒に暮らしたい、という共通した意志があり、それをサポートするプロ集団(今回の手島先生のような)がいたことが大きい。震災の経験として、語り継がれていくべき内容の詰まった講座だった。
〔受講生の今日イチ〕 復興に携わる立命館大学の生徒も受講しに来ていた。
〔大学のココイチ〕 図書館の中にはタリーズコーヒーがあるので休憩にちょうどいい。
〔おすすめ講座〕立命館大学土曜講座
取材講座データ | ||
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東北の復興住宅・まちづくりの現在~復興の現場を通して見えてきた「住民主体の地域再生」と専門家の役割~ | 立命館大学土曜講座 | 第3195回 |
2017年3月4日取材
文/やまうらあゆみ 写真/やまうらあゆみ