IPCCが指摘する地球温暖化4つのポイント
地球温暖化が国際的な問題として取り上げられるようになって久しい。IPCC(気候変動に関する国連政府間パネル)の最新報告によると、地球の温暖化については「疑う余地なし」で、その原因は人間活動が排出するCO2増大である可能性が大としている。しかしアメリカのトランプ大統領は今年6月、温室効果ガスの排出削減策の国際的取り決め「パリ協定」から離脱を表明し、ヨーロッパをはじめとした国際社会からは失望の大ブーイングが上がっている。
IPCCの報告書は次のことを指摘している。
(1)1880〜2012年で世界の平均地上気温は0.85℃上昇している。
(2)21世紀末までに世界の平均地上気温は0.3~4.8℃上がる可能性が高い。
(3)同じく、海面水位は0.26~0.82m上昇する可能性が高い。
(4)CO2の総累積排出量と世界平均地上気温の変化は比例関係にある。
一方で、IPCCは特に指摘はしていないが、近年、太陽活動の低下傾向が続いている。太陽活動が低下すると地球は温暖化するどころか寒冷化することはよく知られているところだ。実際に歴史上、何度もそうした例はある。
地球温暖化の原因については以前から、人間活動によるCO2増大を主因とする「内因説」のほか、太陽活動の変動を主因とする「外因説」の2つが対向していた。ただ私たちがニュースで耳にするのはもっぱらCO2増大の内因説のほうだ。
地球温暖化の原因は本当にCO2なのか。そもそも地球は本当に温暖化しているのか?
神奈川大学で開かれた公開講座「“人類の時代(Anthropocene Age)”と氷河時代(Ice Age)との関わり」を担当し、太陽活動の研究を続けている宇宙物理学者の桜井邦朋神奈川大学名誉教授に訊いた。
20世紀は太陽活動が活発な時代だった
1998年、アメリカ・ペンシルベニア州立大学教授のマイケル・マンが発表したグラフに世界が驚愕した。地球の気温変動を表したものだが、その中で1950年代あたりから急激に気温が上昇していたからだ。その上昇する形がホッケーのスティックに似ていることから「ホッケー・スティック曲線」と呼ばれたグラフだ。これを目にしたとき、桜井先生は心から驚いたと話す。
「歴史上、今より暖かかった時代は何度もあります。太陽活動と気候との間に見られる関係からいうと、10世紀半ばから13世紀まで続いた太陽の大活動期の平均気温のほうが、現在と比べても高い。マイケル・マンがその事実を知らないはずがない。なら、なぜその事実を無視したグラフを発表したのか、という疑問を感じました」(桜井先生。以下「 」内同)
地球温暖化の要因CO2説はこのグラフを根拠に説明されることが多かった。実際、20世紀以降、CO2は増えつづけ、過去120年、気温上昇は続いている。これについて桜井先生はこう説明する。
「地球の大気組成は窒素78%、酸素21%で、CO2はせいぜい0.04%に過ぎません。倍増したところであまりにわずかなので、そもそもこれが地球の温度を上昇させることは考えにくいのです。
一方、過去の観測結果から太陽活動と地球の気温変動の間に一定の相関関係があることがわかっています。実は19世紀終わり頃から1965年頃というのは、太陽活動がとても活発な時期でした。温暖化はこの太陽活動の活発化に関係していると考えられます。
ただし、太陽活動が極大になっても、地球に到達する放射エネルギーの増え幅はわずか0.2%にすぎません。これが地球の温度を0.85℃も上昇させることはできません。そこでIPCCは気温上昇の原因はCO2の増加であると結論したのです」
ゲリラ豪雨と地球温暖化と関りがある?
とはいえ、異常気象や事象を伝えるニュースは増える一方だ。北極の氷が溶けてホッキョクグマが絶滅の危機にさらされているとか、すでに海面が上昇し、南太平洋の島国ツバルが水没の危機にあるとか。南極は南極で今年も過去最大級の氷壁が分離するというニュースがあった。アフリカやオーストラリア大陸では砂漠が広がっていると聞く。これらは地球温暖化の影響ではないのだろうか。
「たしかにいろいろな異変が見られますね。ただ、そうしたことは歴史上、これまで何回も起きていることを思い出すべきです。それらを地球温暖化の影響と結びつけるのは、ちょっと無理があると思います。最近は日本でもゲリラ豪雨や台風の大型化など、何かにつけ温暖化の影響であるかようにいわれますが、ゲリラ豪雨と温暖化の間にどんな関係はあるのか、明らかになっていません。気候変動が起これば海流も変わるし、大気の循環パターンも変わります。するとあちこちでいろんな異変が起こります。しかし、ひとつひとつの事象の原因はよくわかっていないのです」
CO2増加イコール温暖化が不確かなら、温暖化イコール異常気象というのもまた不確かというのが今言える確かなことだという。
「温暖化の影響としておけば、とりあえず話がまとまるというか。それをCO2増加説とするのは多分に政治的な面もあるでしょう」
太陽活動は低下傾向。温暖化どころか寒冷化の予兆
桜井先生はIPCCの見解とは一線を画しつつ、地球の気候変動に太陽がどのような役割を果たしているのかを研究している。IPCCの報告書では触れていないが、20世紀終わりから太陽活動が低下しつづけているという事実がある。
「21世紀以降も異常といってもいいほど静かな状態が続いています。地球表面近い平均気温を調べてみると、実は1999年以降、気温は上がっていません。温暖化は2000年から休止状態です。このまま太陽活動の静かな状態が続いたら、むしろ地球は寒冷化するかもしれません」
ただ、太陽活動の活発さがそのままダイレクトに地球環境に影響するわけではない。太陽活動と地球環境の関係において、その仲立ちともいうべき存在になるのが「宇宙線」である。桜井先生は、気候変動の要因は宇宙線の増減にある可能性が高いという。宇宙線説である。
(続く。次回は「宇宙線」と気候の関りの話)
◆取材講座:「“人類の時代(Anthropocene Age)”と氷河時代(Ice Age)との関わり」(神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター)
さくらい・くにとも 神奈川大学名誉教授、早稲田大学理工学術院総合研究所招聘研究員
1956年京都大学理学部卒業。理学博士。1968 年NASA ゴダード宇宙飛行センター上級研究員。神奈川大学では工学部長、学長を歴任、2004年より現職。専門分野は高エネルギー宇宙物理学、太陽物理学、宇宙空間物理学。著書に『生命はどこからきたか――宇宙物理学からの視点』(御茶の水書房)、『ニュートリノ論争はいかにして解決したか』(講談社)等多数。
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取材・文/佐藤恵菜 写真/(c)pdm/ fotolia