地球気候変動の真の要因は「宇宙線」にあり!?

桜井邦朋神奈川大学名誉教授の宇宙と気候の話(その3)

前回の記事「地球温暖化「CO2悪玉」説は本当に正しいのか?」で、神奈川大学名誉教授の桜井邦朋先生は、現在の気候変動をCO2排出量増大などの内因説だけでなく、太陽活動などの外因説も含めて検証する必要を説き、気候変動の要因に宇宙線の増減にある可能性について示唆した。その具体的な影響とは。

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前回の記事「地球温暖化「CO2悪玉」説は本当に正しいのか?」で、神奈川大学名誉教授の桜井邦朋先生は、現在の気候変動をCO2排出量増大などの内因説だけでなく、太陽活動などの外因説も含めて検証する必要を説き、気候変動の要因に宇宙線の増減にある可能性について示唆した。その具体的な影響とは。

宇宙線とはいったい何なのか

地球の気候変動は太陽活動と相関関係にあると考えられる。太陽はよく知られているように、11年周期で活動量の増減を繰り返している。これをサイクルという。活動量の増減の指標になるのが太陽表面に現れる黒点の数だ。活動が活発なほど黒点の数が増える。ただし、この太陽活動の活発さがダイレクトに地球環境に影響を及ぼすのではない。そこを仲立ちするのが「宇宙線」である。

「宇宙線というのは高エネルギーの原子核群で、そのほとんどが陽子です。今も宇宙空間から地球に降り注ぎ、地球を貫通しています。大気中でミューオンという粒子に変わって、私たちの体も貫通しているんですよ。スーパーカミオカンデで観測されたニュートリノも宇宙線です。

地球に降り込む宇宙線の量を観測してみると、太陽活動が活発な時期は少ない。おとなしい時期は多くなります。宇宙線の量は太陽活動と関係あることがわかっているのです。

太陽活動が活発になると、太陽から太陽風と呼ばれるガスがすごい勢いで吹き出します。このガスが太陽圏全体に広がっていくのですが、ガスの勢いが強いと太陽圏内の磁場が強まります。宇宙線は太陽圏外からやってくるのですが、磁場が強いとその強さに行く手を曲げられ、太陽圏内に降り込む量が減ります。結果的に、地球に降り込む量も減るわけです」

宇宙線が増えると曇り空が増える「スベンスマルク効果」

では、宇宙線と気候変動にどんな関係があるのだろうか。

「宇宙線が大気圏に入ってくるとミューオンという粒子になって、そのうちの一部が大気をイオン化します。イオン化された大気中は水滴になりやすい。ということは、大気中に雲ができやすくなりますね。雲が増えれば太陽光が遮られ、地上に届くエネルギーが減ります。つまり地球に降り込む宇宙線が増えると、地球は寒冷化するのです。逆にいうと、太陽活動が盛んな時期は宇宙線が降り込む量が減りますから、地球は温暖化します」

整理すると、太陽活動が活発になる→地球に降り込む宇宙線が減る→地球が温暖化する、という流れになる。

19世紀後半から20世紀後半にかけて太陽活動は活発で、宇宙線の量は少なかった。これが地球の気温を上昇させた要因ではないか、という説を初めて発表したのは、デンマークの気候科学者スベンスマルクである。1997年のことだ。宇宙線が雲の生成に影響する「スベンスマルク効果」という言葉もあるが、地球温暖化説の要因としては日本ではほとんど知られていない。桜井先生はこう予測する。

「20世紀の後半から太陽活動は静かになっています。サイクル極大期でも観測される黒点は少ないですね。そして宇宙線は増加する傾向にあります。この状態が続けば、もしかしたら地球は寒冷化するじゃないか、そんな気もします」

フランス革命の背景にあった地球寒冷化

氷河期というとマンモスが地上をのし歩いているようなイメージがあるが、小がついた「小氷河期」となると太古の昔の話ではない。

「太陽活動が極端におとなしくなった時期は何度もあります。人類は何度もそれを経験しているんですよ。13世紀から18世紀前半にかけては“小氷河期”と呼ばれる時代です。中でも1645年から1715年頃まで続いた寒冷期は“マウンダー極小期”といって、太陽にほとんど黒点が見られませんでした。太陽活動が極小だった時代です。イギリスのロンドンではテムズ川が凍り、オランダのアムステルダムでは運河が凍りました。それが夏まで続いたこともあったそうです。

1780年前後も太陽がとっても静かになって地球が冷えています。ちょうどこの時期、日本の浅間山の大噴火が重なりました(1783年)。この時の噴煙が成層圏まで上がり、地球上を覆ってしまい、遠く離れたヨーロッパでも昼でも空が赤く見えたといいます。これが地球の寒冷化に輪をかけたといわれています。

この頃、日本は江戸時代ですが、何度も飢饉が起きていますね。ヨーロッパでも大飢饉に襲われています。1780年頃というとフランスでは革命前後ですね。寒冷化で小麦が不作で値段が上がり、農民たちはパンが食べられない。それで王宮に押しかけて抗議したら、マリー・アントワネットが“パンがないならケーキを食べれば?”と言ったというエピソードが有名ですけれど」

氷河期の後、青森県でも栗を食べていた時代があった

このように太陽活動が極端に静かになって寒冷化した時代もあれば、反対に活発になって温暖化した時期もある。

「最後の氷河期が終わったのは1万年ぐらい前で、8000年ぐらい前から温暖化が始まります。日本列島でも海面が上がって、今の群馬県の伊勢崎あたりまで貝塚が見つかっています。また青森県の三内丸山遺跡をつくった人たちは今から7000~8000年ほど前ですが、この遺跡には栗を食していたことがわかる跡があります。現在、栗の北限は関東地方の北のほうですから、その頃はずいぶん日本列島も暖かかったんですね。

その後、10世紀前後、950年頃から1270-80年頃までも温暖期です。中世の大温暖期とも呼ばれます。このあとに小氷河期が始まります。このように地球は100年単位で温暖化したり、寒冷化したりしているわけです」

桜井先生はこのように地球は気候変動を繰り返し、そうした環境の中で人類は文明を築き上げてきたと話す。CO2排出量が増大しない時代にも温暖化した時代はあった。地球は数百年単位で寒冷化したり温暖化したりしてきた。現在、世界で主流の地球温暖化説を考える上で耳を傾けるべき話である。

(了)

◆取材講座:「“人類の時代(Anthropocene Age)”と氷河時代(Ice Age)との関わり」(神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター)

桜井邦朋
さくらい・くにとも 神奈川大学名誉教授、早稲田大学理工学術院総合研究所招聘研究員
1956年京都大学理学部卒業。理学博士。1968 年NASA ゴダード宇宙飛行センター上級研究員。神奈川大学では工学部長、学長を歴任、2004年より現職。専門分野は高エネルギー宇宙物理学、太陽物理学、宇宙空間物理学。著書に『生命はどこからきたか――宇宙物理学からの視点』(御茶の水書房)、『ニュートリノ論争はいかにして解決したか』(講談社)等多数。

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取材・文/佐藤恵菜 写真/(c)nasa_gallery/ fotolia

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