呪術とは何か。 それは、超自然的な存在、 たとえば神とか精霊とか、あるいは霊力の助けを借りて、種々の現象をおこさせようとする行為だとされています。
著名な文化人類学者ジェームズ・フレイザー(1854-1941)はその著書『金枝篇』でこう言っています。こういうことが起きたときに、こうすればこういう結果が得られる、いわば因果律があるのが呪術だ、と。
だから、“呪術”は、現代人がその言葉から受ける印象と違って、かなり合理的な解釈ができるもの。“前科学”とも言えるものです。英語でいえば“マジック”。病気祈願のような良い結果を期待しての呪術ならホワイトマジック(白魔術)、相手を呪って悪い結果を期待しての呪術なら、ブラックマジック(黒魔術)となりますね」
一度使った割り箸は折って捨てる
「その呪術には、2種類ある。それが“感染呪術”と“類感呪術”です。
“感染呪術”とは、感染あるいは接触の原理に基づくもので 、一度接触していたものは、 離れた後も一方から他方に作用を及ぼす、 こういう考え方の呪術です。たとえば、相手の唾液の触れた煙草を入手して、相手を呪う道具に使ったりする、そういうことですね」
記者は、一度使った箸は必ず折って捨てるという風習を思い出した。一度でも身につけたもの、とくに唾液などの体液が付いたものなどは、悪用される恐れがあるためだと聞いて妙に納得したことがある。縄文人の(それどころか、もしかしたらホモ・サピエンスの)DNAが今につながっているのだ。
「いっぽう、“類感呪術”はどういうものかというと、一番わかりやすい例が、雨乞い。雨乞いする時に水をまいたり太鼓を叩いたりするでしょう? これは雷雨を模倣したものです。たとえば雷が鳴ると雨が降る、それを真似る。
つまり、模倣によって願望をかなえようとするのが“類感呪術”です。 土偶はこの類感呪術に使われたものでしょう」
なぜ土偶を壊すのか
「じゃあ、なぜ土偶を壊すのでしょうか。考古学者の意見はだいたい二つに分かれています。一つは、手足が折り取られてのは、手の病気や足の病気の除災である、という見方。これは災いをなくすために折るんだという、いわばホワイトマジックの考え方ですね。
もう一つは、 誰かを念頭に置いて、あいつの足を曲げてしまえ、とか、手が折れてしまえと願う、ブラックマジックですね。私はどちらかと言うとブラックマジックなんじゃないかなと思うほうですね。なぜなら、パプアニューギニアでの調査でも、そういうケースが多いからです」