a タバコを吸う人は認知症になりにくい
b タバコを吸う人は吸わない人より認知症になりやすい
c 長期間、喫煙しても、記憶力は低下しない
20年ほど前になりますが、「タバコはアルツハイマー型認知症を予防する」という学説が盛んに発表された時期がありました。その当時、愛煙家だった私は、奇妙に思いながらもホッとしたものでした。しかしそれは過去の話。現在では、「中年期に1日40本吸っていた人の認知症発症リスクは吸っていない人の約2倍」とされ、認知症の危険因子として認定されています。
答えはbです。
「タバコは百害あって一利なし」と言われますが、これは本当です。喫煙によって記憶力が低下する、脳の前頭葉が萎縮するという研究結果があります。逆に、禁煙によって脳の機能が改善するという研究結果もあります。
注目されるのは、特に中高年期の持続的な喫煙がアルツハイマー型認知症や血管性認知症を引き起こすリスクが高いという点です。「若いころから吸っているから今さらやめてもしょうがない」のではなく、中高年期に吸い続けることがリスクを高めると考えられます。禁煙に「遅すぎる」ことはありません。いつ始めても価値があります。
とはいえ、長年タバコを吸ってきた人にとって、禁煙は大変な決心と努力を要するでしょう。たとえばこんなふうに考えてみてはいかがでしょう。1日1箱吸うと、タバコ代が1日440円かかりますね。1年で16万円使っていることになります。これだけのお小遣いがあれば海外旅行にも行けますよ! 禁煙にはモチベーションが重要です。ご自分の夢をモチベーションに代えて、禁煙にトライしてください。今からでも遅くありません。
(ひとくちメモ)◎高齢者の運転免許証
2009年6月から認知症の運転手による交通事故対策として、75歳以上のドライバーの免許更新時に認知機能検査が行われています。2017年3月にはさらに、75歳以上の交通違反者(信号無視、一時停止違反など18基準行為)には臨時に認知機能の検査が行われるようになりました。この検査で「認知症のおそれがある」と判定された場合、医療機関の受診、さらに必要な場合は主治医の診断書の提出が義務づけられました。「認知症」と診断された場合、運転免許は取り消し対象になります。
【参考:18基準行為の内容】 ・一時不停止 ・信号無視 ・一方通行の道路を逆から通行するなどの通行禁止違反 ・逆走や歩道の通行などの通行区分違反 ・わき見や操作ミスなどの安全運転義務違反 ・一時停止しないなど踏切での違反 ・黄線を越えてレーンを変更する違反 ・右折レーンから直進するなどの指定通行区分違反 ・横断歩道で一時停止せず歩行者の横断を妨害 ・横断歩道のない交差点で歩行者の横断を妨害 ・交差する優先道路の車の通行を妨害 ・対向車の直進を妨げて右折するなど交差点での優先車妨害 ・右左折などの際にウィンカーを出さない合図不履行 ・禁止場所で転回するなどの横断等禁止違反 ・徐行せず左折するなど交差点で右左折する際の方法違反 ・徐行すべき場所で徐行しない違反 ・環状交差点内の車などの通行を妨害 ・徐行しないなど環状交差点を通行する際の方法違反
(「認知症、ならないために」は毎週日曜15:00更新予定)
〔あわせて読みたい〕
認知症の発生が急激に増える「魔の年代」とは?
脳の働きをコントロールする日常生活になじみ深い物質は?
認知症予防の観点から、よいとされる油は次のうちどれ?
■監修■伊古田俊夫
いこた・としお 1949年生まれ。1975年北海道大学医学部卒。勤医協中央病院名誉院長。脳科学の立場から認知症を研究する。日本脳神経外科学会専門医、認知症サポート医として認知症予防、認知症の地域支援体制づくりに取り組んでいる。著書に『40歳からの「認知症予防」入門』(講談社)など。
[伊古田先生からのメッセージ]→「認知症予防とは、認知症を『先送り』することです」
認知症を「予防する」ということは、「一生、認知症にならない」ということではありません。認知症の原因は、今もわかっていないからです。確かなことは脳の老化だということ。ですから認知症を100%予防することはできませんが、発症する年を「遅らせる」ことはできます。いわば認知症の先送り。これが予防策をみなさんに広く知ってもらいたいと願う理由です。
文/佐藤恵菜 イラスト/みやしたゆみ