ウランバートルと北京の環境汚染を目にして
元航空自衛官の高橋健二さんが、清泉女子大学大学院地球市民学科の科目等履修生となって、今年は9年目となる。ここまで続けてこられた大きな理由のひとつに、先生に恵まれたことがある、と高橋さんは語る。
「私が9年間通い続けられたのは先生が良かったからです。授業の中だけではなくて、海外でのフィールドワークにも誘っていただきました。
平和学を教授してくださっている松井ケティ先生は、東北アジア平和構築インスティチュート(NARPI)というプロジェクトの教官をなさっているんですが、2年前、その講習会がモンゴルのウランバートルであり、同行させていただきました。
東アジア各国から4、50名が集まって2週間さまざまなワークショップを行うんですが、それは貴重な経験をさせてもらいました。合宿場所はウランバートル郊外のホテルで、ものすごく自然環境がいいんですよ。空は青空、緑は豊か、ゲルが立っていて、牛は草を食んでいる。
ところがそこからわずか車で30分、ウランバートル市内に入ると、大気汚染がひどいんです。煙モウモウで、とても同じ国とは思えない。また、日本からウランバートルに入るのに北京を経由するんですが、これがまたひどかったんです。
私は乗った飛行機が着陸する時には、職業柄、いつもフラップが出ているかとか、管制塔が見えているかとか必ず確認するんですが、 フラップは出ていることが確認できたものの、管制塔がまったく見えなかったんです、スモッグで。 管制塔が見えないのによく着陸できるなと思ったんですが、どうやら直前になって見えたらしいですね。それくらい空気が汚れていました」
パラグアイの研究調査にも同行し
また、「開発とジェンダー」について学んだ藤掛洋子先生には、パラグアイでの研究調査に同行させてもらったという。
「藤掛先生は若い時、海外青年協力隊でパラグアイに行かれたということで、パラグアイに小学校を作る活動もされている方です。パラグアイは戦前日本からも多くが移り住んだ国ですが、田舎は非常に貧しく、また、男女格差もあります。開発とジェンダーとは本当にリンクするんだと思います。未開発の国ほどジェンダーの問題を抱えていますから。
帰国後、藤掛先生と『パラグアイ戦争史』という本を一緒に監修しました。私が職業柄、武器に詳しいことから、その方面の監修を頼まれたんです。
こうした経験や、25年前、自衛隊最初の海外派遣となるPKOでカンボジアに行った経験などを振り返りながら学んだことは、「平和」と「環境問題」と「貧困問題」は密接に絡み合っているということです」
これからは、貧困と環境問題が戦争を引き起こす
「第2次世界大戦というのは、石油の分捕り合戦でした。日本も石油がないから海外に出て行ったんです。しかし今は石油にとって代わる代替エネルギーが出てきています。
今度、戦争がもし起こるとすれば、それは貧困が火種になると思います。今、大きな戦争はないですが、地域紛争はほとんど貧しい国で起こっています。富める国と貧しい国の格差が広がりつつある。そして奪い合うのは、第2次世界対戦では石油でしたが、これからは食料と水になると思います。しかし今、水と食料が足りなくなってきています。その主な原因が環境問題なんです。
ここに環境問題と平和問題がつながります。環境問題が戦争と平和の鍵になる。自衛官として取り組んできたことと、ここで今学んでることが、ここで繋がるんです。
北朝鮮も貧困ですよね。食料も取れない。本来なら核実験やミサイルやらをしている状況ではないはずですが、飢餓と貧困にあえぐ国が、周辺国の脅威となっているんです。
地球市民学科のモットーは、think globally, act locally。世界の問題を広く考えて、目の前の問題解決に向けて狭く行動を起こす。私も、この平和と環境と貧困の問題を、生涯をかけて勉強し、アクションを起こしていきたいと思っています」
平和学を学んだ元自衛官として伝えたいこと
最後に、大学院で平和学を学んだ元航空自衛官として、日本の現状および日本人の意識について、どう思うか訊ねた。
「日本はやはり島国なんだなあと思います。島国にいると、外で起こっていることに鈍感になるんです。その島の中で何かが起こっているわけではないし、島にいれば安心だと思い込んでいるのです。
でも現実には、遠い世界のことが私たちに影響してくるんです。たとえば日本は石油の90%近くを中東に依存していますから、ホルムズ海峡をやられたら死活問題になります。海上自衛隊があそこを守ろうというのはよくわかります、日本の生命線ですから。でもなかなかそういうことが伝わらない。
また、中国が力をつけてきて日本に干渉するようになっている。南沙諸島や日本の離島にも力を及ぼすようになってきていますから、私たちもアンテナを張って注意していないといけません。
私がいま心配しているのは、中国などの外国による土地の買い占めですね。北海道の土地がどんどん買われているし、対馬ではレーダーサイトの周りが韓国人に買われていると聞いています。なぜもっと報道されないのかと歯がゆく思います。
日本は過去の北朝鮮による拉致事件などを見ても、波風を立てたくない、事を荒立てたくないと、見て見ぬふりをする傾向があります。しかし、何かあったときには国民に知らせたり行動を起こすことも必要だと思います。だから私は多くの人に、もっと外にも目を向けてほしいと思います。
自衛隊のことについていえば、この20年で本当に国民の自衛隊を見る目が変わってきたと思います。25年前、PKOでカンボジアに派遣された時のあの反対運動や、22年前の阪神淡路大震災での自衛隊の災害派遣問題を振り返ると、国民の自衛隊に対する理解がものすごく進んできたと思います。
国民を助けるのが我々自衛隊の仕事です。もっと信頼してもっと使ってほしいと、ずっと思ってきましたし、いま現役の自衛官たちもそう思っているはずです。
清泉女子大学に来てキリスト教に触れ、印象的な話を知りました。ミレーの描いた『落穂拾い』の絵がありますよね。あの背景には、富める者は収穫するときに一部残し、落穂は拾うな、という話があるんです。貧しい者を救うために。あるいは自然界のために。それを聞いた時、これだと思いました。そういう考えが平和教育につながるのかと。
人生の最後は聖書を勉強するのもいいなあと思い始めています。こうして宗教に偏見なく取り組めるようになったのも、清泉女子大学というカソリック大学に来たからこそではないかと思います」
(了)
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取材・文・写真/まなナビ編集室(土肥元子)