日本の渋滞損失時間は年間50億時間!その約3割は首都圏
動かない時は本当に動かない、なのに急に今までのは何だったのか?と思うくらいスルスル動き出す、それが渋滞だ。
首都大学東京・都市環境学部教授の小根山裕之先生は、「日本全の渋滞損失時間は年間にして50億時間、約280万人分の労働力に相当します。また、その約3割は首都圏において発生しています。東京はさまざまな交通課題を抱えていますが、渋滞もその一つです」と語る。
この渋滞の解消のため、国はさまざまな施策をとってきた。その一つが環状道路の整備だ。
東京が、世界の他の大都市、たとえばロンドンやパリに比べて遅れを取ってきたと言われるのがこの環状道路の整備だという。小根山先生は解説する。
「環状道路の機能には次の4つがあります。
〇都心を通さなくてもすむようになるので渋滞緩和になる。
〇郊外から都心へ行く時、さまざまな経路が選べる。
〇周辺地域間で直接移動できる。
〇事故や災害の時、ほかの経路で行ける。
いま首都圏ではようやく3つの環状道路が整備されつつあります。20キロ圏の首都高中央環状線、50キロ圏の東京外環道(東京外環自動車道)、100キロ圏の圏央道(首都圏中央連絡自動車道)。しかし整備するだけではだめで、高速道路全体をもっと効果的に運用していかないといけないんです」(小根山先生)
海外では下記のような動的な交通管理がされて渋滞緩和をはかっているという。
大人数乗車していないと走れないレーンもお金を払えば……
動的交通管理とは、決められた運用に基づくだけでなく、時間によって運用形態を変えたり、通常とは異なる運用を取り入れたりといった、需要に応じて立体的弾力的に交通を管理していくことをいう。講座で紹介されたいくつかの例を解説しよう。
可変速度規制・動的な車線運用
車線ごとに速度規制をかけたり、車線ごとに運用の時間帯を変えたりして、渋滞しないようにより効率よく流れるようにするもの。
動的な路肩利用
日本では路肩を走ってはいけないが、海外では時間帯を区切って路肩を開放することがよくある。
動的課金
シンガポールなどでは、市内中心部に入るのに時間帯によって課金される。これによって交通量を調整している。
動的HOVレーン
HOVとはHigh-Occupancy Vehiclesで、HOVレーンとは規定人数以上が乗っている車しか通れないレーン。アメリカの高速道路の内側レーンはこのHOVレーンになっているが、HOVレーンだけが空いてしまうことがある。そこで、規定人数に満たなくてもお金を払えば通行してよいという動的な運用をすること(HOTレーン:High-Occupancy-Toll)。
ランプメータリング
高速道路は進入路のところで渋滞しやすい。そこで流入する手前に信号機を置き、短い間隔で赤、青、赤、青と変えることで流入する車の数をコントロールすること。
そして日本でも渋滞緩和のための新たな取り組みが始まっている。その一つが、光を使った速度管理のシステムである。
光の作用で渋滞解消を少しでも早く
最近、エスコートライトとかペースメーカーライトと呼ばれるものが首都高速や東京アクアライン、東名高速、阪神高速などに設置されてきている。
これは光(LED)を点滅させ、その点滅速度をコントロールすることでドライバーの意識に働きかけ、渋滞から抜け出る際に速度を出させたり、あるいは安全のために速度を抑制させたりする効果が期待されている。(下は首都高速道路株式会社による首都高速上り勾配区間に設置されたエスコートライトの動画)
「これは学術的には《走光型視線誘導システム》と呼ぶことを提唱しています。さまざまな効果が期待されていますが、いま確実に効果がありそうだとされているものが、渋滞から抜け出していく時に速度を上げさせて捌(さば)け台数を増やす効果です。
渋滞している時、ドライバーはどこに渋滞の先頭があるのかわからないため、ダラダラとちょっとずつスピードを上げていくんです。そうなると渋滞の回復が遅れるのですが、それを少しでも光の効果で早く回復させようということです。
光の速度を車の速度よりちょっと早くする、そういうことで光に車がくっついていって、スピードが知らず知らずのうちに上がっていく、という仕組みです。光がドライバーに作用するメカニズムについてはまだ完全に解明されてはいないのですが、人間にも走光性(生物が光の刺激に反応して移動すること)があって光についていくのではないかという説があります」
では、ドライバーの方は気がついているのだろうか。また、気がついた方が効果があがるのだろうか。
「ドライバーが光を意識したほうが効果があるのか、それとも意識しない方が効果があるのかは、まだこれから検証が必要です。じつは今年、うちの研究室(首都大学東京都市環境科学研究科)の学生が行った2つの実験のひとつでは、気がついた方が効果があるという結果が出ましたが、まだまだ検証を重ねていかないと、意識するしないで効果が違うのか、効果が違うとすればどちらがより有効なのかについて、結論を出すことはできません」
交通渋滞が引き起こす莫大な時間的経済的ロスを少しでも減らすため、大学でもさまざまな研究が進んでいる。知ることで、渋滞に出会っても、ただ腹立たしく思うだけではなく、客観的に見ることができるようになる、それが《学び》の持つ力だ。
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おねやま・ひろゆき 首都大学東京・都市環境学部教授
平成7年、東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻修士課程修了、建設省土木研究所環境部交通環境研究室研究員、東京大学生産技術研究所助手、国土交通省国土技術政策総合研究所企画部課長補佐を経て、平成16年東京都立大学大学院工学研究科助教授、平成17年首都大学東京都市環境学部准教授、平成24年同教授。専門は交通工学、道路交通環境、交通計画。著書に『道路環境影響評価の技術手法』『「交通渋滞」徹底解剖』『都市の技術』など(いずれも共著)。博士(工学)。
◆取材講座:「江戸・東京の「まち」と「ひと」シリーズ~大都市東京の交通 10年後、20年後を見据えた交通のあり方を考える」(首都大学東京オープンユニバーシティ)
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取材・文・写真/まなナビ編集室(土肥元子) 図版/小根山裕之氏提供