フルートと私

11月の一次審査通過作文/「学びと私」作文コンテスト

菊池浩美さん(68歳)/東京都/最近ハマっていること:韓国語の学習

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菊池浩美さん(68歳)/東京都/最近ハマっていること:韓国語の学習

 20年程前、たまたま聴いていたラジオのフルートの音色に魅了された。元々クラシック音楽好きではあったが、小学生の頃ピアノに挫折して、その苦い経験のせいか楽器から遠ざかっていた。そんな私の心をとらえたのは、心に沁みわたるようなフルートの音…自分もあんな音を出してみたいと思った。そんな時、偶然に新聞に折り込まれてきた「40歳からのフルート」のチラシに目が留まった。年齢的にも丁度良いと思い、早速入会してグループで習い始めた。
 音を出すまでが大変だと聞いていたが、不思議なことに難なく音は出た。音出しに悪戦苦闘している仲間の様子を見て、自分はフルートに向いているのではないかと、内心密かに喜んだ。易しい曲もすぐに吹くことができた。ピアノと比較すると、単旋律なので最初はやり易いのだろう。当時はフルタイムで勤務しており、練習時間が充分に取れなかったが、細々とレッスンには通い続けた。しかし定年退職する数年前からは、国内・海外出張も多くなり、定期的にレッスンに通うことは困難になり、心の余裕もなくなり、レッスンをやめてしまった。それ以後はケースにしまったまま、フルートを取り出すこともなかった。
 そして3年前に定年退職して、非常勤になったのを機会に、早速フルートレッスンを再開した。久しぶりに手にしたフルートは、妙に重く感じられた。しかし息を吹き込んでみると、以前と同様に楽器が鳴ってくれた。角度が少しでも異なると、楽器がまるで嫌がっているように、詰まったような音になってしまい、音が遠くに伸びて行かない。どんな角度で、どんな強さで自分の息を楽器に吹き込むのか、その加減が微妙である。楽器と対話しながら、楽器が喜んで鳴ってくれるように息を吹き込むわけだ。その時の自分の心の状態も音に表われてくるような気がする。語りかけるように息を吹き込み、指も動かす。息と指のタイミングをしっかり合わせることも重要なポイントだ。しばらく試行錯誤するうちに、以前の感覚を取り戻すことができた。
 習い始めて数年の頃に取り組んだ曲を、再度練習している。あの頃よく回らなかった指も、丁寧にゆっくりと何度も練習することにより、少しずつできるようになってくる。その進歩を実感できることも嬉しい。また、深い呼吸を使うせいか、練習開始時の軽い頭痛が、練習終了後にはすっかり治っていることに気づくこともある。また、指を早く動かすことは、きっと脳の老化防止にも良いに違いない。
 また、現在の職場の文化祭で、ピアノ、バイオリンを演奏する同僚と私のフルートで三重奏を発表する機会も与えられた。他の楽器の音によく耳を傾け、その演奏者の息遣いをしっかり聴いて合わせることの難しさを痛感した。しかし、3人の呼吸、気持ちをぴったり合わせて演奏できた時の達成感、大きな喜びを味わうこともできた。
 仕事第一で、これまで夢中で過ごしてきた。数年間の中断後に、フルートレッスンを再開することができた。時間的な余裕、精神的な余裕が生まれた現在、レッスンの内容をじっくり復習し、曲についても複数の演奏を聴いて、自分の理想に近いものを探すことができる。アンサンブルも経験して、人と合わせ、一緒に曲を作り上げることの楽しさを初めて知った。このように新たな気持ちで、フルートを学び直せることを嬉しく思う。
 健康維持のため、老化防止のため、そして何よりも、自分の楽しみのために、今後も90歳を目標に、フルートの練習を続けていきたいと思っている。

学びと私コンテスト

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