バツイチが直面する離婚トラウマどうすれば?

杉山崇 神奈川大学人間科学部教授の「不倫の境界線」(その3)

2017年1月に厚生労働省が発表した「平成28年人口動態統計の年間推計」によれば、2016年1年間の婚姻件数は62万1000組、離婚件数は21万7000組。時間の関係をさておき強引に計算すれば3組に1組が離婚する時代だ。数の上では離婚は珍しいものではなくなったが、そんなことは離婚で傷ついた心には何の慰めにもならない。神奈川大学で「大人の人間関係論」講座を開催している同大人間科学部教授・杉山崇先生は、トラウマの乗り越え方について語った。

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2017年1月に厚生労働省が発表した「平成28年人口動態統計の年間推計」によれば、2016年1年間の婚姻件数は62万1000組、離婚件数は21万7000組。時間の関係をさておき強引に計算すれば3組に1組が離婚する時代だ。数の上では離婚は珍しいものではなくなったが、そんなことは離婚で傷ついた心には何の慰めにもならない。神奈川大学で「大人の人間関係論」講座を開催している同大人間科学部教授・杉山崇先生は、トラウマの乗り越え方について語った。

離婚のトラウマ体験を癒す方法はありますか?

ワイドショーでよく取り扱われる話題のひとつに、政治家や芸能人の不倫ネタ、離婚ネタがある。それだけ多く取り上げられるということは、視聴者の関心が高いということ。つまり、夫婦関係に悩んでいる人がそれだけ多いということだ。

杉山先生の講座「大人の人間関係論」では講義後、さまざまな質問が寄せられるが、離婚によって受けた大きなストレスを吐露した質問があった。それは、離婚後、離婚が話題にのぼったりすると、自分の離婚のことを思い出して傷つくようになった、この心をコントロールする方法はあるだろうか、という質問である。

そこで杉山先生は、ある体験がトラウマ(精神的外傷)になってしまった時、どのようにして解消すればよいかについて、丁寧に説明した。

トラウマを思い出すたびに、トラウマ記憶そのものに傷つく

「離婚で悩む人からよく聞く話として、離婚調停の裁判で判決がおりた瞬間の絶望的な思いがふとした時によみがえる、とか、自分は別れたくなかったのに一方的に別れを告げられた瞬間が忘れられず、些細なことで思い出してしまう、ということがあります。人間はつらい体験をすると、その瞬間がホールドされて、些細な刺激でよみがえるようになってしまいます。これは、“もう2度とそんな目に遭わないようにするために、忘れないようにしよう”という心の仕組みです。

つまり、心は“リスク・センサー”としての役割を持っていて、記憶は生き残る確率を高める“リスク・データ”の役割を持っているのです。

ですが残念なことに、トラウマを思い出すたびに、私たちは思い出したトラウマ記憶そのものにまた傷ついてしまうのです。これがフロイトのいう、人間の心のパラドックスです。私はこの仕組みのことを『不安のパラドックス』『恐怖のパラドックス』と呼んでいますが、こういうパラドックスを抱えるほど、人間の心は不完全なのです」

トラウマを克服するためにはどうしたらよいか

では、そういった感情をどうコントロールしたらいいのだろうか。

「ショッキングな体験をした直後であれば、その出来事を時系列に沿って語ることで、出来事から距離を置くことができます。怖かったとか絶望したとか、そういった感情は一切抜きにして、報道リポーターのように出来事を語る。こうすることで出来事のど真ん中にいた自分から、出来事を客観的に眺めている自分へと変わるのです。出来事の直後であれば、一定の効果があります。

出来事からかなり時間が経っていて、すでに繰り返し思い出して傷ついていた場合には、『繰り返しのエクスポージャー』という方法があります。これは時系列に語るのではなく、その時に語れるところを繰り返し繰り返し、ちょっとずつちょっとずつ語る方法です。

実は私たちの記憶というのは、がっちり固まったデータベースではないんです。思い出すたびに多少編集され、編集されたものが上書き保存されます。なので、ちょっとずつ思い出してもらい、少しずつ形を変えてもらって、新しい形に書き換えていくのです。これには時間がかかります。年単位でかかることもあります。思い出すプロセスで傷ついたりもします。しかし、信頼できて安心できるセラピストと一緒にやると、ちょっとずつ思い出すたびにトラウマ記憶が形を変えていって、通常の記憶になります」

最上の方法は「思い出さないこと」

「そして、一番いい方法は、思い出さないこと。記憶を持っていたとしても、思い出さなければ“なかったこと”になります。人間には思い出さないと忘れる機能もあるので、それが上手にできれば一番いいですね。

ただ、トラウマ記憶は本当にささいな刺激で思い出されてしまうので、できれば時間をかけてトラウマ記憶を通常の記憶に変えていくのがよいでしょう。

また、この記憶は自分の脳じゃないといいきかせることもあります。自分なんだけどほんとに自分のことなのかなあ、という感じにもっていく。しかし、こうやって人格を分離させ、体験を分離させて身を守ることをやりすぎると、現実をゆがめてしまうので要注意です。ただ、人間は案外現実を見ていないことが社会心理学の研究で明らかになっていますから、心の平安を保つためにちょっとぐらいイリュージョン(幻想)を見ることは許されるかなと思います」

もしトラウマを抱えた人が近くにいたら

家族が、友人が、トラウマを負った場合、周囲の人はどうしたらよいのだろうか。

黙って一緒にいてあげるのがいちばんです。トラウマ記憶を楽にしてあげようと根掘り葉掘りツッコミを入れたりすると、逆に苦しめてしまいます。本人が自発的に語りたいと思うまでは触れないでいてあげてください。

そして当事者が思い出さずに済むように、何事もなかったように付き合う。当事者はこれで案外気が楽になるんですよ。人間はひとりぼっちだと寂しいし、苦しいものです。その寂しさからトラウマ記憶を思い出したりもします。でも、誰かと一緒にいれば気がまぎれるし、ほっとできる。だから特別なことはしなくてよいので、黙ってただ一緒にいてあげる。時間がかかるかもしれませんが、それが救いになるのです」

◆取材講座:メンタルヘルス・マネジメント講座「大人の人間関係論」vol.5「不倫の境界線」(神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター/KUポートスクエア)

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取材/辻本幸路 文/まなナビ編集室 写真/(c)kelly marken/fotolia

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