小平奈緒選手の単身オランダ留学は
「やっぱり最高に贅沢ですよね、学ぶことって」
学ぶことについて質問すると、笑顔でこう即答したテリー伊藤。眼差しは真剣そのもの。大学は春休みに入ったが、学び・思考の歩みは少しも緩めていないことがわかる。
「今って、テレビを見ててもネット検索をしてても疑問を感じる人が、多くなってると思うんですよ。人の噂とか、誰かの不幸とか不倫とかどうでもいいこと見て、“ああよかった、私の方が幸せ”って面白がる人がいる一方で、人の悪口とかが嫌になっちゃった人が増えている。
だから、ストイックに競技に打ち込むオリンピック選手を見ると、憧れるんじゃないかな。平昌五輪で金メダルを取った小平奈緒選手の、単身オランダ留学して厳しい所に身を置き、努力し続けているストイックな姿を見ても強く感じましたね。とにかくすごいなあって。いいなあって。ものすごく心は贅沢だなって思うんです」
買った服は洋服ダンスに入れっ放しのこともあるが
これまで、ファッションや映画、車、グルメ…など、趣味も人脈も多い彼はオフタイムも十分充実してきたように思えるが、「心の贅沢にはなりえなかった」ときっぱり。
「服にしてもね、買った時が頂点なんですよね。だから下手すると、買ったらすぐ洋服ダンスに入れてそのまま日の目を見ないなんてこともよくあって(苦笑)。いつまでこういう暮らししてるのかなって、そういうのがむなしくなってきたんですよね。
でも学校は違う。めちゃくちゃ苦しい(笑い)。だけど帰り道にむなしさがない。なんとも言えない気持ちよさに満たされるんです」
西部邁氏の自殺
これからの人生をどう生きるかーー。話は、今年1月に入水自殺した評論家の西部邁氏(享年78)に及んだ。
「西部さんがおっしゃっていたそうです。“優雅な老後を人に話してどうするんだ”って。世の中をこうするんだ、改革するんだっていっていた人間が、だんだん悠々自適になっていく。そういう最後の余韻の中に身をさらすことは、自分の美学として美しくない。だから死ぬんだと。家族にも宣言し、本にも記していたそうですよね。考えさせられました」
西部氏と結論は違っても、中高年は誰もが“この後どうやって生きていくべきか”と危機感を持つ。彼はそれを“次の一手”と表現する。
「お前を幸せにするとか、俺についてこいとかいって、家族のためにがむしゃらに仕事をしてきたお父さんたちが、エネルギーも収入も才能も使い果たすのが55〜65才くらい。それからどうするか、どう生きるか。次の一手をどう出すか。
転職するのでもいい。趣味に走るのでもいい。何にするか決まるまで、アルバイトして猶予を設けるのでもいいと思う。俺は他に方法論がなかったから、大学院で学ぶことを選んだんですよ。学んでると次の一手が出やすいとは思うよね。どうしようかと考えてる人は、余裕があったら、学ぶことを選択肢に入れてもいいんじゃないかな」
彼の“次の一手”が最終的にどこに着地するか、これからも目が離せない。
「学校では掃除の人や生協の人に“お疲れさま”とか“忙しい?”とかって必ず声をかけるようにしてるんです。そうするとあちらも話しかけてくれるようになるんですよね。
なかには掃除のおばさんに、すっごく堂々としてる人がいて、“テリーさん、頑張ってよッ!”なんて言われるんだけど、あぁ、こういう生き方はカッコイイなあって。職業関係なく、“堂々としてる人”は素敵な人生を歩んでるなあって思えるんです」
この連載のタイトル通り、ともかくカッコよく進んでいることは間違いない。
取材・文/辻本幸路 撮影/chihiro.