Q アルツハイマー型認知症の早期症状として見られるのはどれでしょう?
a 新しいことを学習しても、すぐに忘れてしまう
b 薬の管理ができなくなり、飲み方がでたらめになる
c 近所を散歩中に、自宅に帰れなくなる
アルツハイマー型認知症の代表的な早期症状は、「新しく体験したこと、学んだことをきちんと記憶しておけない」という記憶障害です。答えはaです。bやcの症状も、アルツハイマー型認知症の症状ですが、早期症状ではなく、かなり進んだ段階のものです。薬の飲み忘れが増え、家にたくさん余っているのに、病院に行くと、お医者さんには「ちゃんと飲んでいます」と答えて、またもらってきます。散歩中に道に迷って帰ってこられないことがあっても、「買い物には自分で行っています」とウソをつくことも増えてきます。この段階になっても本人には認知症の自覚症状がないことが多く、家族への負担が大きくなります。こうなる前に早期発見する必要があるのです。
早期症状の場合、日々の生活の中で見たり聞いたりしたことを覚えていられなくなるため、今日の予定や約束を何度も尋ねます。日付もあいまいになってきて、何度も「今日、何日だっけ?」と聞いたりします。人に伝言を頼んでもきちんと伝わらなくなります。
お金の計算も不確かになってきます。買い物に行ってレジで「1,127円です」など半端な金額を言われると、小銭を持っていてもとっさに数えられず、2,000円を出してしまいます。いつもお札を出すので、財布の中はお釣りの小銭でいっぱいになります。また、新聞代や保険料などの支払いを忘れたり、逆に支払ったことを忘れて、もう一度払いに行ったりということも起こります。
「もの盗られ妄想」も、アルツハイマー型認知症の初期に現れる特徴です。たとえば財布をどこに置いたか忘れて見当たらないときに、「盗まれた」と思い込んでしまうのです。それも「妻(夫)に盗まれた」などと家族のせいにすることが多いので、ケンカの種になりやすいのです。毎日、朝昼晩と食べているのに、「うちの嫁は私にご飯を食べさせてくれない」などと言い出すこともあります。こうした被害妄想的な言動がみられたら、すみやかに診察を受けるよう考えてください。
(ひとくちメモ)◎アルツハイマー型認知症とは
代表的な認知症で、認知症患者の約6割を占めます。記憶を司る脳内の海馬などが萎縮することで記憶障害が現れます。脳内に、アミロイドβというタンパク質が過剰に蓄積されることで神経細胞の働きが阻害され、病的な変化が起きると考えられています。
(「認知症ならないために」は毎週日曜16:00更新予定)
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■監修■伊古田俊夫
いこた・としお 1949年生まれ。1975年北海道大学医学部卒。勤医協中央病院名誉院長。脳科学の立場から認知症を研究する。日本脳神経外科学会専門医、認知症サポート医として認知症予防、認知症の地域支援体制づくりに取り組んでいる。著書に『40歳からの「認知症予防」入門』(講談社)など。
[伊古田先生からのメッセージ]→「認知症予防とは、認知症を『先送り』することです」
認知症を「予防する」ということは、「一生、認知症にならない」ということではありません。認知症の原因は、今もわかっていないからです。確かなことは脳の老化だということ。ですから認知症を100%予防することはできませんが、発症する年を「遅らせる」ことはできます。いわば認知症の先送り。これが予防策をみなさんに広く知ってもらいたいと願う理由です。
文/佐藤恵菜 イラスト/みやしたゆみ