一線の研究者が解き明かす「脳の老化」の仕組み
「歳を取ったなあ」とつくづく感じる第一の身体の部分が、目だ。
記者は新聞の字が読めなくなり、メガネ(もともと近視)を外した方がよく見えると気がついた。だが、かなり紙面に顔を近づけなければならず、そのうちパソコンの字も見えなくなってきた。これでは仕事にさしつかえると、遠視用のメガネを作った。
顔も老けた。多くの女性たちが鼻の脇から口に向かってのびる「ほうれい線」が濃くなって老け顔に見えると悩んでいるようだが、男もそこは同じ。鼻の脇の陰影は日増しにくっきりとし、すぐ横のほっぺたも垂れ下がり始めた。放っておけば岸信介や佐藤栄作(この例えがわかる人はけっこうな歳に違いない。ぜひ、画像でググッてほしい)級のブルドッグ顔になってしまう、いや、もうなっていると、慌ててジョギングを始めたが、続かないのが情けない。
これらは目に見える老化だ。自覚症状もある。だが、見えない老化もある。身体の中、特に脳の老化は目に見えず、自覚も難しい。これだけ高齢者が増え、現実に認知症など「脳の老化」が問題になればもう他人ごとではない。
現実に自分の身体はあちこちガタガタだ。頭にガタが来てもおかしくはない。かつては物忘れのひどさを自虐ギャグとして笑い飛ばしていたが、それも若いからできたこと。最近は、まあ大丈夫ですか? と周りの人が真顔で心配してくれる。
現実を直視せねばという一大決心のもと(本当は編集部から「ピッタリだから行ってみてください」と言われたから)、向かったのが芝浦工業大学の講座「脳の老化ってどんなこと?~からだのサビが認知症を引き起こす!~」(2017年1月)だった。
老化とは酸化、特に激しいのが脳の酸化
芝浦工大と聞けば電気や機械の世界を想像するが、この日、教壇に立った福井浩二先生は、生命科学科の教授だ。システム理工学部生命科学科は2008年に設立されたまだ新しい学科で、福井先生も40代の精鋭の研究者だ。「脳の老化」の世界で多くの実績をあげる学者でありながら、ご自分の薄くなってきた頭を笑いのネタにできる尊敬すべき先生だ。定員100名を超える受講者が押しかけ、満杯になった会場で講座は始まった。
福井先生の話をひとことで表現すれば、「老化とは酸化である」ということだ。歳を取るごとに身体の細胞のあちこちが酸化して蓄積していく。それが老化だ。酸化の身近な代表例が金属のサビだろう。「身体がサビ付く」という表現があるが、まさにその通りのことが起こっているわけだ。
中でもサビの一番ひどいところが脳だ。もともと脳の細胞は酸化しやすい物質でできている。それに加え、考えることはもちろん、身体中の機能を司る脳は休みなく働き続け、酸素消費量は身体のどの部位よりも多い。人間の脳は体重の2%だが、酸素消費量は身体全体の4分の1を占める。その結果、他の身体の部位に比べ、脳の酸化は激しくなり、その結果、脳の老化を招くことになる。認知症をはじめ脳の病気の原因になる。