高校二年生、修学旅行の目的地は台湾だった。僕にとって始めての海外旅行であり、中華圏の人々との交流だった。飛行機を降りるとそこは異国で、耳に不慣れなリズムで中国語が響き、波打っていた。当然ながら何を言ってるかなどほとんど分かるはずがなかったのだが、街にある看板に書いてある文字の羅列からは何となく意味を推測することが出来た。その時僕は自分の中では世紀の大発見とも言えるべき発見をしてしまった。日本語にも表記の方法として漢字がある。だから僕は中国語の漢字の羅列を見るだけである程度の意味は推測することが出来た。しかし他の言語を母語としている人々はそうはいかない、漢字を覚えなくてはならないのだ。日本人にとって、漢字が得意な僕にとってこんなにも学びやすい言語は他にあるだろうか、いいやきっとないだろう。修学旅行中にこの大発見をした僕は帰国後一ヶ月が経った頃には中国語を学び始めていた。予想通り漢字の部分については日本語と通ずる箇所が多く、改めて学ぶ必要はほとんどなかったのだが発音の方法や口、舌の動かし方は日本語にはないものがあった、修学旅行の時に不慣れなリズムだと感じた理由は聞き慣れていた日本語にはない発音方法があったからなのだ。発見から生まれた新発見、そして学んでいくうちに最初は違和感を感じた中国語のリズムに格好良さを見出してしまった僕は発音を極めようと決心した。発音を極めるために必要な事はとにかく開口して実際に喋ることだと考えた僕はとにかく喋り続けた。中国語の授業時間は常に先生と途切れ途切れだがお喋りをしてもらい、単語を覚える時も見て書いて口に出した、そして終いには自転車を漕ぎながら目に入った漢字を中国語発音でぶつぶつ一人で読み続けた。やるならとことんやってやろうと思った僕は自分の中国語のレベルをここまでにしてやろうとある日ひとつ目標を定めた、ネイティブスピーカーと中国語を使って話した時に「あなた中国語上手いね」と言われない状態までにしてやろうと。しかしこれがなかなか難しい、まず何が難しいかというと先生以外のネイティブスピーカーと話す事のできる機会が僕が故郷に住み続けている限り非常に低いのだ、近年中国や台湾からの観光客が増えているとはいえ比率としてはもちろん日本人の方が多い、せっかく習った中国語も使っていないと進歩はしない、むしろ退化してしまう、日本に住み続けている限り生活で使う単語は中国語ではないのだ。ネイティブスピーカーからネイティブに勘違いされる為にはネイティブに囲まれて生活するのが最善の策である事に気づいた僕は今、台湾の大学へ通っている。中国語に四方八方囲まれた生活を送っている、自分で言うのもなんだが中国語を使い意思疎通を図る自分の姿は格好良いのではないかと密かに胸の内で思っている。
あの時感じた不慣れなリズムを自分のリズムにする為に僕は台湾までやって来た。
あの時感じた不慣れなリズム
12月の一次審査通過作文/「学びと私」作文コンテスト
岩井響さん(19歳)/広島県
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岩井響さん(19歳)/広島県