尿に糖が出た=糖尿病と単純にいえない理由
「糖尿病はメジャーな病気ですが、じつは誤解されているところも多い病気です。たとえば尿に糖が出たからといって、即、糖尿病というわけではありません」と、阿部先生はまず釘をさした。
糖尿病は英語でいえば”diabetes mellitus“(diabetes=尿、mellitus=甘い)、直訳すると尿糖。それゆえ誤解を招きやすいが、尿検査で尿糖値が高ければ糖尿病、という単純なわけではないという。尿糖値が上がる陰には、腎障害など、ほかの疾病が原因となっているケースもあるからだ。
そのため、糖尿病かどうかは、尿中の糖レベルではなく血液中の糖レベルで判断する。血液中の糖レベルとは、「血糖値(血液中のグルコース濃度)」や「糖化ヘモグロビン量」をさす。インスリンの作用が足りず、血液中のブドウ糖(血糖)をうまく体に取り込むことができなくなると、処理されなかった糖が血管にあふれ、高血糖状態になる。その状態が継続してしまう病態を糖尿病という。
「糖尿病という名前は誤解を招きかねない病名なんです。正確に言うなら、“高血糖病”とか、“インスリン病”と呼ぶ方が実態に合っていますし、より理解されやすくなると思います」
インスリンが血糖値を直接下げるわけではない
糖尿病には大きく分けて、1型と2型がある。1型は、自己免疫疾患などでインスリンを分泌する膵臓B細胞(β細胞)が壊されるため、インスリンの分泌が足りなくなるものだ。主に若年のうちになることが多い。これに対して、30才以上の人が多くかかる2型は、インスリン分泌能が低下したり効きが悪くなるもので、糖尿病全体の90%をこの2型が占めている。食生活やストレスなどが引き金となって発症する生活習慣病のひとつに挙げられる。
よく誤解されているものに、インスリンの働きがある。
インスリンは血糖値を下げるホルモンであると説明されることが多いが、この作用は本来の役割ではない。私たちが食事をしてブドウ糖が体内に入ると、その変化を察知した膵臓がインスリンを分泌する。
このインスリンは、次の2つによって、ブドウ糖を有効利用する助けをする
(1)主に筋肉や脂肪組織の細胞へのブドウ糖の取り込みを促進させる
(2)肝臓で貯蔵ができるように、ブドウ糖からグリコーゲンやたんぱく質に変換する
つまり、インスリンの本来の役割はブドウ糖の利用率を高めることであり、血糖値が下がるのはその結果にすぎない。
こんな症状が出たら糖尿病を疑え
糖尿病の症状には、一見、糖尿病とはわからないものもある。その症状と理由を挙げよう。
〇食べても食べても満腹感が得られず、大食いになる。
「え! これが糖尿病のサインなの?」と言われそうだが、いくら食べても満足しない場合は、糖尿病を疑ったほうがいいかもしれない。通常は満腹中枢の神経細胞への指令はインスリンが行う。しかしインスリンの作用が低下してくるとその指令がうまくいかなくなる。そのため満腹感を覚えにくくなり、つい食べすぎてしまうのだ。
〇尿の量が増える。口が渇く。
血液中の糖分が多くなると、血管内がドロドロになる。すると浸透圧の関係で血管内に大量の水分が入ってくる。その水分は尿として排泄される。だから尿量が増えるのである。
一方、血管内に水分をとられた体は脱水症状を起こし、水分を欲してしまう。口が渇き、大量に水分をとるようになる。昔は糖尿病を「飲水病」と呼んでいたのはこのためだ。しかし口が乾くからといって水分を摂取しすぎると腎臓に負担がかかってしまい、悪循環を招きかねない。
〇体が痩せてくる。
肥満の人が糖尿病になりやすいことは、前の記事「糖尿病になる危険大 避けたい3つの食習慣とは」で述べたが、糖尿病になると逆に痩せてくるケースがある。糖尿病は、インスリンの働きが悪いために血液中のブドウ糖(血糖)をうまく利用できなくなる病気だ。そのため、食べても食べても栄養失調の状態になるのである。体内のエネルギーが不足するので、体は脂肪やたんぱく質を分解してエネルギーにしようとする。そのため筋肉が痩せてしまうのである。
このように、自分は痩せているから糖尿病にはならない、とするのは当てにならない。糖尿病は知らないうちに進行してしまう病気だ。以上の症状に当てはまる場合には、糖尿病外来などでしっかり検査してもらったほうがよいだろう。
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◆取材講座:「糖尿病の基礎から治療・予防法まで」(武蔵野大学公開講座・三鷹サテライト教室)
取材・文・写真/守田詩帆菜(武蔵野大学文学部3年) 写真/(c)Y’s harmony/ fotolia
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