「森で迷ったら切株の年輪を見ろ」は必ずしも正しいわけではなかったその理由

樹木のふしぎ@東京農業大学

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東京農業大学非常勤講師の堀大才先生

東京農業大学講師の堀大才先生

針葉樹の山が広葉樹の山より崩れやすいのは本当か?

斜面というのは非常に不安定な場所です。地面は傾いているし、風も吹きつける。降り積もった雪も谷側に移動していくから、どうしても重心が谷側に向いてしまう。そこで木は必死に根を張って踏ん張ろうとします。そのとき、針葉樹は谷側に根を伸ばして踏ん張りますが、広葉樹は山側に、自らを地下のワイヤー支柱で支えるように根を発達させるんです

斜面に生えるとき、針葉樹は谷側に根を張り、広葉樹は山側に体を支える根を張るというのだ。そこで思った。よく広葉樹がたくさん残っている里山は崩れにくいけど、植林された針葉樹の山は崩れやすいというが、その理由はこれだったのか、と。しかし堀先生はこの短絡的な考えも覆していく。

広葉樹は傾く反対側に根を張って、針葉樹よりしっかり地面をつかんでいる。だから崩れにくいです。またその根も針葉樹より深く、広がりも大きい。でも、では針葉樹の人工林は崩れやすいかというと、そうでもない。植えて数年の若い人工林は別ですが、何十年もたった人工林は意外に崩れにくいんです。それは、人工林というのは、一本の木から採った種子から苗を育てて植林されることが多いから。つまり、遺伝的に近い木が集団で生えている。じつは、遺伝的に近い木は、年を取るにつれて根っこが癒合してきます。まるで竹林の地下茎(ちかけい)のように地下でつながってくるんです

うわあ、なんかこう、年を取ると親兄弟と顔つきが似てくるといったような話だ。遺伝子という魔物にとらわれているのは、人も植物も同じなのだ。

樹木の根っこが互いに癒合することを「根系(こんけい)ネットワーク」と言い、そうなると根が絡み合って崩れにくくなる。もちろんこれは、植えてから時間が経過した人工林について言えることで、若い木が多い山ではそうはいかない。

人間は自分の都合で活動するから、植林しやすいところに植林します。だからいま広葉樹が残っているところは、尾根すじで風が強く乾燥しやすかったり崩れやすい場所だったりして、そもそも植林に適さない場所なんです。だから、『針葉樹林はだめだ、広葉樹林はすばらしい』などと短絡的に断言することは大きな間違いです

私たちが樹木について持っている知識というのは、人間の都合でゆがめられたものなのだ。わたしたちの役に立つ立たないではなく、フラットな目で樹木を観察すると、そこには思いもよらなかった不思議が詰まっている。 

◆取材講座:「樹木の形を読みとく」(東京農業大学オープンカレッジ・世田谷キャンパス)

文/まなナビ編集室 写真/SVD(樹木)、まなナビ編集室

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