「学びと私」コンテスト 10月はこんな作文が集まっています![3]

10月の一次審査通過作文/「学びと私」作文コンテスト

10月31日が締め切りの第3回「学びと私」作文コンテスト。1次審査を通過して第3回金賞候補作になった作文のうち一部をここで紹介します。

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学びと私コンテスト

10月31日が締め切りの第3回「学びと私」作文コンテスト。1次審査を通過して第3回金賞候補作になった作文のうち一部をここで紹介します。

時を越えて

 私は幼少期からサッカーが大好きだった。その思いが高じて、高校生のころから、サッカー専門スポーツジャーナリストを志していた。
 専門書を読み漁り、知識は他の追随を許さないと言っても過言ではないほど、持ち合わせていた。しかし、夢の具現化のためには、正しい方法論が必要となる。現在のサッカー界において、スター選手が集う主戦場となっているのは、ヨーロッパ。その中でも、イタリアとスペインに惹かれた私は、独学で、イタリア語、スペイン語の勉強をし始めた。男性名詞、女性名詞など、誰の力も借りずに身につけていくにはかなりの困難が伴う語学であるが、なにより、サッカーが好きである、この壁を突き破り、その先にある世界を見てみたい。その不退転の決意で、黙々と取り組み続けたのである。
 学校卒業後は、念願だった東京の出版社に就職することができたが、残念ながら、今で言う「ブラック企業」だったため、そこから、大きく飛躍することができなかった。広げた翼は志半ばで休めることを余儀なくされてしまったのである。
 あれから十数年が経った。今も私はサッカーがとてつもなく好きなティフォージ(イタリア語で特に熱狂的なファンで、時に暴力的な行為に及ぶ集団のこと)であることは変わりはない。しかし、スポーツジャーナリストというもうひとつの目標は遠く離れてしまっている。  ようやく生活も落ち着きを取り戻して、金銭的にも充実してきたこの頃、ある大学の講演でイタリア語やドイツ語を学ぶ講座を受講する機会があった。 強い思いを胸に学習していた当時である。 長い年月を経ても、単語や言い回しは強烈に頭の中にこびりついている。やはり、学問でも、スポーツでも、万物は「気持ち」によって大きく左右されるのだな、と実感している。
 現在はだいぶ流暢にしゃべれるようになった。もし現在の状況をイタリア語で表現するならば CI Vediamo(また会いましょう)ということになる。あのときよりはるかにマスターしたイタリア語を引っさげて、今度こそイタリアへ。夢にまで見たヨーロッパ上陸へ。そのときはもう目の前まで来ている。それこそが私にとって最高の至福のときだ。

中島雅淑さん(34歳)/岐阜県

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先生、生徒になる

 思い立ってフランス語の講座に行き始めた。二十年ほど前に大学で勉強したことがあるが、長年さぼり続けてきたフランス語。文法知識はあるので、辞書の助けがあればある程度の文章は理解できるのだが、とにかく喋れない。そもそもうまく発音できない。また、聞いても理解できない。典型的な「大学の教養課程の外国語」のなれの果てである。
 そんな私が会話クラス中級に入門した。初めて授業を受けたとき、先生がゆっくり話すフランス語を、私の頭はまるでタイプライターを打つように忙しく文字に置き換えていった。文法だけの頭でっかちの自分にはそのような聞き方しかできないことに気付いて、私はすぐに打ちのめされた。これではスピードが少し早くなると、もうお手上げである。話せる言葉、使える言葉として、反射的に口から出たり聞いたりできるようになりたい。それには地道な努力、つまり何度でも慣れるまで反復することが必要だ。これは、私の日々の課題である。もう一つ、授業の最初に、一人ずつ一週間の出来事を何かフランス語で短く報告しなくてはならず、これにとりわけ悪戦苦闘している。得意のフレーズ「ジュスィザレオーシネマ(私は映画に行きました)」はもう数回使った。毎週毎週映画に行くわけにはいかない。必死に作文を考える。なんて忙しい一週間。そして、なんて楽しい一週間だろうか。
 しかしながら、講座に通い始めて一番の収穫はなんと「フランス語の上達」でも「学ぶ楽しさ」でもなかった。それは実は「生徒という立場に身を置くこと」そのものにあった。大人になって長年経つと、人に教えることはあっても人から教えてもらうことはあまりない。まして私は普段アルバイトで塾講師をしている。自分より未熟な者を相手にする時間が、自分と対等か自分より目上の人かを相手にする時間より、圧倒的に長い。毎日のことである。知らず知らずのうちに、「先生臭」というか、そんな謙虚知らずの偉ぶった態度が身についていたのではないだろうか、と思うきっかけとなった。人前で、発表する、緊張する、間違える、恥をかく、覚える。他の生徒の発表に感心する。他の生徒と教え合う。先生の話を素直に聞く。先生に直してもらう。このような生徒の立場を、かつては日常的に経験していたはずなのに、今で はとても新鮮に思う。「教える側」から「教えられ る側」への立場の変換は、うまく表現出来ないのだが、私の精神衛生上とても良い影響を与えていると思う。まるで人間としてのバランスが良くなった気分がする。それは塾で再び「先生」という立場に立った時にも役立っていると、心の中で自画自賛している。私が「生徒」になる時、分からないことが少しずつ分かるようになっていく、出来ないことが少しずつ出来るようになっていく、少しずつ成長していく、私はその「手伝い」ではなく「主体」だ。出来るようになるのは、他人でなく私だ。「先生」は、何年やっても、自分が新しく何か出来るようになったり分かるようになったりするわけではない。だから「生徒」の立場になることが、もうそれだけで、楽しく面白いことのように感じるのだろう。「生徒」になると、学ぶ主体になると、自分が自分を生きている実感がある。そのことに気付いた。そういうわけで私は、いい歳した大人にこそ是非ともお伝えしたい。「生徒になること」それ自体が楽しいということを。

シツタマキさん(40歳)/神奈川県

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講座で学んだこと

 今日の市の読書サークル協議会の、歴史講座は平安時代の社会と文化一で、「土佐日記」と紀貫之という内容だった。文学史では紀貫之という名前を見聞きしていた。「古今和歌集」の撰者の一人であり、歌人、「土佐日記」の仮名序の作者である。国語の試験の答えを知っているという、詰め込まれた知識の一つにすぎなかった。
 歴史的な捉え方は初めての経験である。講師の先生は平安時代の研究者である。先生のお話では、紀貫之自身は、他の文学作品の著者に比べて、出世頭とは言えないとか、二・三年の任期で転任し、内膳典膳という炊事係、大監物という蔵の出し入れの係などの役職をこなして、貴族となったのは四十七歳の頃とか。公務員として私も転勤を重ねてきたので、とても親近感を持った。
 「土佐日記」は土佐守の任期を終え、京への帰路の旅を素材に作られた作品。配られたプリントの旅程の地図に、私は、行程の宿泊地に印をつけてみた。こんな形で京へ戻る旅をしたのかと改めて思った。正月休みがあったり、荷物が多いので船を使ったりとか話を聞きながら、私も旅の同行者の気分である。瀬戸内海で海賊が出るとは初めて知った。室戸岬を回り、和泉国へと渡るまで、海賊に注意しながらの旅であった。
 物語は作者を女性に仮託して、日記という書名ではあるが、事実と作り事が混じりあった文学作品である。そして、読者を意識して、楽しく読んでもらう工夫や、笑いを誘うような所もあるとか。現代文学と似通っていて面白いと思った。
 紀氏は大伴氏と同じく武芸に秀でた氏族であることも初めて知った。ただ、和歌を歌う人たちではなかったのだ。平安時代を生きていた人が、私の中で違って見え、人間らしさを感じ始めた。同じ人間なのだという感じを持った。
 「土佐日記」の写本についても面白いお話を聞いた。紀貫之の自筆本は、藤原定家、藤原為家、松本宗綱、三条西実隆が書写されているとか。権威のあるのが藤原定家であるが、定家は原典を変え、文章が違う所があるとか。
 歴史という、違った目から文学作品をみると、こんなにも生き生きとして、人の息づかいまで感じることができて面白かった。
 十月からは岐阜大学で「古写本の読み方」を受講している。講師は中世の文学を専門の研究者である。授業は箸袋や歌碑の変体仮名の説明から始められた。変体仮名は文字をいかに楽に書くか、手を抜くかという言葉で説明をよくされる。早く文章を書く必要があったのだろうかと思った。私は長い間、変体仮名は美術的なものと思っていた。必要に迫られての変体仮名とは思わなかった。「更級日記」は藤原定家が書き留めなければ現代まで伝わらなかったと言われた。まだまだ知らない、思いも寄らないことだらけである。

皆勤賞さん(66歳)/岐阜県

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(一部の作文に、編集室がタイトルやルビをつけ、文字の訂正などをしています)

第3回「学びと私」コンテスト1次審査通過作文をチェック!
10月はこんな作文が集まりました![1]
10月はこんな作文が集まりました![2]

過去の「学びと私」コンテストの金賞作品はこちらから
9月(第2回)の金賞3本が決定しました
8月(第1回)の金賞3本が決定しました

第2回「学びと私」コンテスト1次審査通過作文をチェック!
9月はこんな作文が集まりました![1]
9月はこんな作文が集まりました![2]
9月はこんな作文が集まりました![3]
9月はこんな作文が集まりました![4]
9月はこんな作文が集まりました![5]
9月はこんな作文が集まりました![6]

 

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