人間は他人の自分勝手な行動に厳しい
私たちは自分勝手な人間が大嫌いなようだ。
内閣府の平成28年度の社会意識調査によれば、「現在の世相をひとことで言えばどのような表現があてはまると思うか」との質問に対する回答で、「無責任の風潮がつよい」が39.5%と最も高く、「自分本位である」が36.6%、「ゆとりがない」が31.7%、「連帯感が乏しい」が28.6%となっている(複数回答可)。
では、それほどまでに無責任で自分本位で連帯感のない人が多いのかというと、そうでもないようだ。
「日頃、社会の一員として、何か社会のために役立ちたいと思っているか、それともあまりそのようなことは考えていないか」という質問に対しては、「思っている」と答えた人は65.4%、「あまり考えていない」と答えた人は32.1%だった。
つまり、他人に対しては自分勝手で無責任な人が多いと感じながら、自分は社会貢献したいと思っている人が多いのである。
自分には甘く、他人には厳しい。とくに自分勝手な行動に、人間は厳しいのだ。
帝京大学経済学部の大浦宏邦教授の著書『人間行動に潜むジレンマー自分勝手はやめられない』(化学同人刊)によれば、こうした「自分勝手」を嗅ぎ分ける才能を私たちは持っており、その心理的なメカニズムは【裏切者探知モジュール】(裏切者探索モジュールとも)と呼ばれる。
人間は他人の自分勝手な行動に厳しい
老人に席を譲らない、規則を守らない、遅刻をする、部をあげて行われる歓送迎会に出席しない。
こういった社会の規範や協力体制を守らないことに、私たちは必要以上に敏感だ。これは人間の進化の過程で、協力体制を維持することが繁殖に必要だったことから、その和が乱されれば、瞬時にその裏切者を探そうとする心理メカニズム【裏切者探知モジュール】が発動するからだ。
今回の一件でも、貴乃花親方が相撲協会の聴取に協力するしないということに、私たちがあれほどまでに執着する陰には、この脳内のシステム【裏切者探知モジュール】が作用していそうだ。
現代社会はつねに叩く人を探している。とくに、その人物に対して抱いていた印象と実際の行動のギャップが大きく現れた時に、【裏切者探知モジュール】はより強く出るという。