娘からもらった「ご褒美」シール

9月の一次審査通過作文/「学びと私」作文コンテスト

もちまるさん(38歳)/石川県/最近ハマっていること:ピアノを弾くこと

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もちまるさん(38歳)/石川県/最近ハマっていること:ピアノを弾くこと

 子供の頃、習ったこともないくせに、毎年七夕様の短冊に「ピアノがほしい」と書いていた。今思えば七夕様もさぞかし困惑したお願いだっただろう。七夕様にお詫びしたい。

 七夕様へのお詫びというわけではないけど、大人になった私は、初めてもらったボーナスで、電子ピアノを購入した。といっても、楽器店に足を踏み入れるという事は、とても勇気のいることで、予算的にも気持ち的にも、ホームセンターの片隅に一台だけ展示された電子ピアノを購入するので精いっぱいだった。それでも、ピアノと同じ数の鍵盤が並ぶ電子ピアノを手に入れた喜びはひとしおだった。

電子ピアノを買ったは良いけど、習いに行く勇気を持つのはこれまた難しかった。二十歳そこそこの私は、まだまだ自意識過剰で、いい大人がピアノ教室に入会するなんて、恥ずかしさが先行して、どうしてもできなかったのだ。

 そこでまずは、小学生の頃、学校の休み時間にお友達に教わった曲を弾いてみた。楽譜は読めないし、そもそも持っていないので、記憶の図書館をひっかきまわして思い出す。

 レパートリーは少ないけど、思い出して弾いていくという作業は、まるでパズルをしているような感覚で、ピタっと音がはまると気持ちよく、それだけで満足だった。

 その後、結婚や出産もあって、電子ピアノからも遠ざかっていたのだけど、この春四歳の娘が音楽教室に通うことになり、また私と電子ピアノの距離が縮まった次第だ。

 子どもに保護者が付き添う形でレッスンを受ける教室なのだけど、私は付き添いというより、娘と一緒に学ぶのだという気持ちで参加している。これがまたとても楽しい。私の中の幼いころの「習いたかった」という気持ちが満たされていくような感覚になる。 そんな中、先日書店ですべての音にドレミが書いてある楽譜を発見。これなら何とかなるかも!と思って早速購入し、少しずつ弾いてみている。

 でも弾いてみてわかった。単に書かれたドレミ通りに弾いても、何かがおかしい。それもそのはず。音符には音の長さの違いがあって、テンポだって必要。まだ入り口に立ったばかりだが、どうやら楽譜の世界にもルールがたくさんありそうだ。そしてそれを知りたいという気持ちがむくむく湧いてくる。

 そんな風に、一つ実践することで新たな疑問が生まれて、またそれについて知ろうとする。そうこうするうちに、できるようになりたいという根っこからどんどん枝葉が伸びていき、いつかは木になっていくのだろうな…学ぶってきっとこういうことなのだろうなと、そう思う。

 そんな私に、先日娘が照れながら何か持ってきてくれた。見ると小さな手にキャンディの形のシールが五つも

「お母ちゃん、間違えずに弾けたね。はい、ご褒美シール」

 ご褒美シールは、他者に認められたしるし。それがこんなに嬉しいものだということを幼い娘に教わったわけだ。 きっと私はこの先も、ちゃんと習いに行くでもなく、誰かに披露する機会もないままだろう。でもそんなお気楽な姿勢が、自分には一番合っていると思っているし、それゆえ、ずっと続けられるような気もしている。

(作文の一部に編集室が文字の修正などをしています)

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