航海への扉

12月の一次審査通過作文/「学びと私」作文コンテスト

みこさん(28歳)/宮城県/最近ハマっていること:休日に少し手間をかけて美味しい朝食を作りのんびりすること

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みこさん(28歳)/宮城県/最近ハマっていること:休日に少し手間をかけて美味しい朝食を作りのんびりすること

 私は語学を勉強すると、素敵な望遠鏡を手にしたような気持ちになる。言葉を勉強している国がテレビに映ると言葉を聞きたくてつい見てしまうし、全ての意味は分からなくてもその国の本を読みたくなる。日本と違う海の向こうの風景に思いを馳せることができるし、思い切って海を渡って、町の様子を見たり、直接現地の人と話をしたりすると、その国に縁を持ったかのような親しみが生まれる。語学は、海の向こうにある遠い景色を引き寄せてくれるのだ。
 私は、中学生の時に独学でロシア語の勉強を始めた。私が住んでいた青森は、ロシアが近いのでロシア人との交流が活発に行われていて、私の学校でも定期的にロシア人との交流があった。
 テキストを進めていくと、ロシア語は、おもちゃのような可愛らしい文字だが、遥か北国の雪の女王が唱えている吹雪のような、美しく透明感のある独特な発音が印象的であると感じた。その言葉をCDの後に続いて発音してみたり、テキストと同じように書き写したりするだけで、今まで見たことのない場所へと行くことができる、秘密の扉の鍵となる言葉を覚えているようなわくわくとした気持ちになった。
 実際ロシア人と交流する時間はあっという間に過ぎていったが、お互いの文化を紹介したり、一緒に「カチューシャ」と「ふるさと」を歌ったりして、海を隔てた未知の国が、一気に手を伸ばしたら届くくらい近くのように感じた。もっと知りたい、近づきたいと思い、ロシア語を勉強できる高校に進学した。
 その高校の研修でロシアの極東ハバロフスク市を訪れたことがある。美しく、かつ威風堂々と構える教会が町のあちらこちらに建ち、広場も多く開放的で、建物の色彩が豊かで可愛らしい。女性は年齢問わずお洒落を楽しんでいて、ホテルの宿泊客は私たちに陽気に声をかけてくれたのが印象的だった。さらに、現地の同世代の人たちの文化を紹介してもらったり、言葉を交わしたりすると、今まで一生懸命言語を勉強してきた異国と、私たち日本の一個人がつながったような感覚になった。語学を勉強することで、海の向こうのわくわくするような扉を見つけ、現地に行くことで、少しその先が見えた気がした。
 ロシアから帰ってきた後、テレビの世界の天気でロシアの気温を見る機会が増えた。ロシア政治や経済の報道も、歴史的背景を掴みきれていなくても、とにかく注目するようになった。私がロシア語を習っていたというきっかけで、日本に住むロシア人の店員と、お酒を飲みながらロシアの魅力を語り合ったり、一緒にロシアのポップミュージックを歌ったりすることもあった。語学を勉強していくと、遠すぎて見えない景色を肌で感じることができるのだ。
 日本人同士でさえ、言葉を重ねなければお互いを理解できないことがある。異国の文化で育っていればそれは尚更だ。語学を学べば学ぶほど、遠くの知らない文化を近くに感じることができる。新しい考えを覗くことができる。地道な努力を続ける分、その素敵な望遠鏡は精度が高くなっていく。これからもその望遠鏡を携えて、国際化が進む現代の航海を楽しみたい。

学びと私コンテスト

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