憲法で考える天皇の生前退位、トランプより強い総理

【Interview】中央大学副学長 橋本基弘先生

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「今の日本の内閣総理大臣の権力は絶大です」

アメリカ大統領と日本の総理大臣、どっちが強い?

――受講生の方が意見を出し合うこともあるのですか?

橋本:戦後の混乱期を生き抜いてきた方が多いので、平和の問題については議論が活発になりますね。また、婚姻制度の話題でもけっこう盛り上がりました。昨年、民法が改正されて、女性の再婚禁止期間が短縮されましたが、授業の中でも、「そんなものなくていいよ」という意見が多く出ました。また、夫婦別姓を話題に出したときには、受講生の70才くらいのご婦人が、「私は旧家の生まれで、自分の名字に大変愛着があったので、結婚して名字が変わることにものすごく抵抗感がありました」というお話を皆さんの前でされました。憲法の定める法の下の平等と民法の規定について意見を交わすなかで、他人の人生観とも触れ合うことになる。そういう機会を持てると、とても嬉しくなります。

――今年のテーマの大きな柱である天皇の生前退位についてお話しください。

橋本:天皇の「生前退位」についてはさまざまな意見がありますが、そもそも象徴天皇とは何かということから話し始めようと思っています。天皇の活動には、大きく分けて国事行為と私的行為があり、憲法に規定されているのは、内閣の助言と承認を受けて決められる国事行為だけなのです。しかし、現在の天皇はそれ以外に被災地訪問などの「象徴としての行為」(象徴天皇としての公的活動)に積極的に取り組んでおいでです。こうした行為は、憲法に規定がありません。

一方で、現在の天皇は即位のときに「日本国憲法を守り」と宣言されたように、憲法に対して非常に強い思いをお持ちです。その天皇が、生前退位を表明されている。また、この3月末には、ご自身の退位後は、国事行為を今の皇太子に引き継ぐと同時に、この「象徴としての行為」も今の皇太子や秋篠宮に引き継ぐ意向であることが報道されました。この「象徴としての行為」を、天皇にどこまでしていただくべきなのか。その問題は生前退位後も新天皇に引き継がれます。それを憲法との関係において、どう位置付けるべきなのかは、国民として考えなければならない問題だと思います。

――もうひとつ、取り上げるご予定なのが、選挙制度ですね。

橋本:はい、選挙についてはぜひ触れたいと思っています。一票の格差をめぐる問題はずっと継続していて、不平等な状態はいまだ解決されていません。では、選挙について憲法にはどう書かれているのか。それを受講者の方に問いかけ、私たちの身近な問題として、考えてみたいですね。いま、新聞ではトランプ大統領の話題がよく取り上げられていますが、「アメリカの大統領と日本の内閣総理大臣を比べると、どちらがその国において権力があると思いますか?」という質問をよく、受講生に投げかけるのです。

すると、アメリカ大統領と答える方が多いのですが、これが違うのです。アメリカ大統領のほうが権限そのものは強いのですが、与党が過半数を占めるという条件のもとでは議院内閣制下で選ばれた日本の内閣総理大臣のほうが、やりたいことを自由にできるのです。実際、トランプ大統領は、さまざまなことをあきらめなければならなくなっているでしょう? 内閣総理大臣がリーダーシップを発揮しにくいから首相公選制を主唱する議論がありますが、今の小選挙区比例代表制で与党が過半数を占める状況下で選ばれた内閣総理大臣ほど強い存在はないのです。

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