フランス美術散歩 -魔力のイタリア-
中央大学クレセントアカデミー
駿河台記念館
阿部成樹、望月典子、小林亜起子
-教養その他, 講義詳細
-中央大学クレセントアカデミー, 講義詳細, 阿部成樹、望月典子、小林亜起子, 駿河台記念館
概要
講師・コーディネーター
中央大学文学部教授 阿部 成樹
フランス人たちが「古典時代」と誇らしくいう17 世紀以前、ヨーロッパの文化的中心地はイタリアでした。その古代帝国が瓦解して以来、イタリアは長らく都市国家に分かれていましたが、そこに生まれた競争心こそイタリアの文化的活気の源泉のひとつだと、かつて歴史家のブルクハルトは説きました。このイタリアから吹いてくる風は近代に至るまでフランスの文化人や美術家たちを魅了し、時に悩ませ、時に道を誤らせました(ドイツ人ではありますが、トーマス・マンの名作『ヴェニスに死す』のアッシェンバッハの姿に、その象徴的なイメージを見ることができるかもしれません)。そこには「イタリア」が放ち続けた魔力と同時に、今も昔も変わらない、そして洋の東西を問わず普遍的な、外国に学ぶことの難しさも感じられるようです。
今年の講座では、ルネサンス以降のフランス美術の中に、魔力を発揮したイタリアの影を追跡しましょう。取り上げられるのは絵画だけではありません。宮殿建築とそれを華やかに飾る装飾絵画や、紙の上にだけ実現した奇妙な建築も含みます。それらの作品を通してイタリアに魅せられ、学び、そこから自信を得たり逆になくしたりする美術家たちの姿を眺めます。できればそこに、西洋から大きな影響を受けた近代日本人である私たち自身の体験を重ね合わせて、思いを巡らせていただければと思います。
第1回 イタリアへの憧憬 -フランスの「ルネサンス」 10/14(望月典子講師)
16 世紀、フランソワ1世は、イタリア侵攻を通じてその文化・美術に大いに魅了され、レオナルド・ダ・ヴィンチを初めとするイタリアの美術家たちを招聘して、フランスに「ルネサンス」を開花させました。ローマに比肩する宮廷にすべく、王が改築に乗り出したフォンテーヌブロー宮殿には、イタリア・マニエリスムの画家たちとフランスの美術家たちによる豪華な装飾が展開します。フォンテーヌブロー派と呼ばれる彼らの斬新で豊穣な装飾作品を鑑賞しましょう。
第2回 カラヴァッジョの魔力 10/28(望月典子講師)
イタリア初期バロックを代表する画家カラヴァッジョの劇的な明暗対比と写実主義は、西洋美術に革新をもたらしました。当時、多くの画家たちがカラヴァッジョの「魔力」にとらえられ、その影響はヨーロッパ中に広がります。フランスもその例外ではな く、同じ頃に進行していたカトリック改革を背景として、カラヴァッジョ様式に倣った優れた宗教画が多数描かれました。深い闇と写実の中にフランス特有の静謐さと瞑想性を潜ませた名作の数々をじっくりと見て行きます。
第3回 グランド・ツアー -イタリアへの旅
11/4(小林亜起子講師)
17 世紀末から18 世紀にかけて、イギリスやフランスの貴族や知識人は、文化や教養を身に付けるためにイタリアの地を目指しました。「グランド・ツアー」の名で知られるこのイタリア旅行は、啓蒙時代に黄金期を迎え、近代ヨーロッパで育まれていく新しい感性の形成に大きく寄与します。イタリアは古代の遺跡や彫刻、ルネサンス美術の宝庫であり、芸術家もこれを学ぶため各地を周遊しました。この時代に著された旅行記などを通じて、彼らの心を躍らせたイタリアの都市と芸術の魅力を探っていきます。
第4回 夢のイタリア - 18 世紀フランス風景画 11/25(小林亜起子講師)
イタリアは古代の詩人たちが歌い上げた桃源郷であり、理想的風景画の舞台として、ルネサンスの時代より芸術家の想像力を駆り立ててきました。ヴァトーは16 世紀ヴェネツィア派の風景描写を手本に、18 世紀フランスの新しい風景表現を試みました。ヴァトーをはじめ、瑞々しいイタリアの景色を描いたフラゴナール、古代建築や遺跡をモティーフに悠久なる時の流れ捉えた「廃墟の画家」ロベールの風景画を鑑賞しながら、イタリアの地に思いを馳せた画家たちが描いた世界を堪能しましょう。
第5回 冷たい熱狂 -新古典主義の夢
12/2(阿部成樹講師)
イタリアの栄光を代表するのは、ルネサンスばかりではありません。古代ローマが築き上げた帝国もまた、ヨーロッパ規模で文化と社会、そして芸術の模範とされてきました。フランスもまた例外ではありませんでしたが、その憧れの表現のひとつがフランス革命です。しかし、約1300 年も前に滅んだ外国をお手本とすることに、無理はなかったのでしょうか?ナポレオンは本気で古代帝国の復興に挑んだのでしょうか。この回では新古典主義美術を取り上げて、フランス人美術家、建築家たちが古代のイタリアにどんな夢を見て、どうアプローチしたかを探りましょう。
第6回 過去の重みと未来への憧れ -近代のイタリア 12/16(阿部成樹講師)
19 世紀になると、さしものイタリアの魔力も落ち着きを見せてきます。フランスの芸術家たちは相変わらずイタリア留学を続けますが、その意味合いは18 世紀までとは少し違うようです、ちょうど日本人の留学体験が明治と現代では異なるように。イタリア美術が再度ヨーロッパの注目を集めたのは、皮肉にもこの国にファシズムが忍び寄る20 世紀始めのことです。そこには「ラテン民族の故郷」としての「地中海世界」という新たな魔力が働いていましたが、それは何に対抗するものだったのでしょうか。この時代のかなり前衛的なイタリア芸術を眺めつつ、「魔力のその後」あるいは「現代の魔力」を考えましょう。
講座期間
2017/10/14~2017/12/16
講師概要
中央大学教授。パリ大学美術史学博士。フランス新古典主義美術(特にダヴィッド、アングル)のほか、美術史家アンリ・フォシヨンについての学問史的研究が専門。訳書にフォシヨン『かたちの生命』(ちくま学芸文庫);シャステル『ルネサンスの神話』(平凡社);ラコスト『芸術哲学入門』(白水社文庫クセジュ)など。
慶應大学他非常勤講師。慶應義塾大学大学院文学研究科後期博士課程修了、博士(美学)。
著書:『ニコラ・プッサン: 絵画的比喩を読む』 (慶應義塾大学出版会、地中海学会ヘレンド賞受賞)、共著: 『西洋美術の歴史 バロックからロココへ 華麗なる展開』第6巻 (中央公論新社)、『フランス近世美術叢書 絵画と表象Ⅱ』(ありな書房) ほか。
中央大学・東京藝術大学兼任講師。パリ第十大学修士課程・東京藝術大学大学院美術研究科博士課程修了、博士(美術)。著書:『ロココを織る―フランソワ・ブーシェによるボーヴェ製作所のタピスリー』 (中央公論美術出版)、訳書: フイエ『イタリア美術』監訳(白水社文庫クセジュ)、シャステル『ローマ劫掠― 1572 年聖都の悲劇』(筑摩書房)、グリフィス『西洋版画の歴史と技法』共訳(中央公論美術出版)。
アクセス
JR中央・総武線「御茶ノ水」駅下車、徒歩約3分/東京メトロ丸ノ内線「御茶ノ水」駅下車、徒歩約6分/東京メトロ千代田線「新御茶ノ水」駅下車(B1出口)、徒歩約3分/都営地下鉄新宿線 「小川町」駅下車(B5出口)、徒歩約5分
日時の変更もありますので、開講情報は必ずこのページの大学HPからご確認ください。
この情報は大学の許可をとっています。