「サービスが先、利益が後」
今春から続いている、amazonとヤマト運輸の攻防戦。報じられたところでは、ヤマトが引き受けているamazon関係の宅急便数は2億2000万~3000万個にものぼるという。通常より低い価格で引き受けているうえに、受け入れ能力を超えた個数に現場が疲弊していることは、今春から幾度となく報道されてきた。
いまヤマトはamazonに対し、運賃の値上げとともに引き受け個数を削減する総量規制を申し入れている。現代の便利な生活のしわ寄せが生み出したともいえるこのバトルの決着は今年10月頃になりそうだ。
武蔵野大学の公開講座「言葉から探る経営と生き方─生活に欠かせないコンビニと宅急便」の講師を務める武蔵野大学准教授の渡部博志先生は、次のように語る。
「日本で初めて個人向け宅配である“宅急便”を始めたのは、大和運輸の2代目社長だった小倉昌男(1924-2005)です。小倉の経営哲学の根本は、“サービスが先、利益が後”でした。よいサービスを提供すれば、利益はついてくる、という考え方です。その精神は今もヤマト運輸に中に脈々と流れています。また、小倉は、1976年に個人向け宅配である“宅急便”を始めますが、事業が今ほど大きく育っていない時期に、それまで引き受けていた商業貨物をバッサリ止めました。小倉は優先すべきことを優先する、筋金入りの経営者でした。今回のヤマトの判断も、そうした経営哲学ゆえのことでしょう」
「安全第一、能率第二」
さらに講座では、“車が先、荷物は後” “安全第一、能率第二” という経営哲学が紹介された。この一つの典型例が、ヤマトが集配に使っているウォークスルー車だ。
ヤマトといえば、上部が肌色で、下部が緑のこの車だ。この車はウォークスルーバンといわれるもので、貨物の集配時の仕分けなどの車内作業や荷物の上げ下ろしが便利なように、天井が高く、横のドアが引き戸になっている。“宅急便”の生みの親である小倉が、トヨタに宅急便向けのウォークスルー車の開発を依頼し、いま私たちが毎日目にしている、あの車が誕生したのだ。
「ヤマトのウォークスルーバンでは左側が大きく開くので、運転手は安全な歩道側に出て作業できるようになっています。“安全第一、能率第二” “車が先、荷物は後” の哲学は、このような部分にも垣間見られるように思います」
ヤマトの経営哲学とamazonの経営哲学の戦いともいえるこの攻防戦はどのように決着するのだろうか。
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文/まなナビ編集室 写真/SVD