パソコンの性能が2倍になったからといって
人口増が望めない今、経済成長の鍵を握るのは生産性です。生産性と聞くと、特許や研究といった理系分野を思い浮かべるかもしれません。でも日本の就労者の7割が従事するのはサービス産業。そうした分野では、発明や発見、新たな技術の導入が生産性向上に結びつくわけではありません。例えばパソコンの性能が2倍になったからといって、私が原稿を書く速度が2倍になったりはしません。
「人」が発揮する「能力」が生産性です。人が発揮する能力は、人が動き、そして出会うことによって経済的な生産性につながります。
まず「動く成長」とは、人が能力を発揮できる場所に移ることが経済成長につながるという経済理論です。
かつての日本は、農村から町に大勢の労働者が移動したことで、国全体の生産性が急速に上がりました。多くの人が農村に住んでいた頃は、多少人が減ったところで農家の生産性は変わりません。いわば、農村部に人が余っていたわけです。その余剰人員が町に出て工場に勤めるようになれば、国全体の生産性が上がるのは当然です。
ただし、流出が続くと農村部に人が足りなくなる時がやってきます。これは「ルイスの転換点」と呼ばれるもので、日本では昭和35~40年頃でした。それ以降、農村の人が町に引っ越すだけでは経済が成長しなくなります。
では「動く成長」はもう期待できないのかというと、そんなことはありません。今の日本でも通用するのが、東京近郊から地方の中核地へ、という移動です。
セクシャルマイノリティが住みやすい町は
「動く成長」の次に求められるのは「出会う成長」です。特にアイデアが生まれやすいのは、専門や経験が違う人同士が出会ったときです。アイデアは、インフォーマルでフランクな「弱いつながり」から生まれます。
そうしたつながりが生まれやすい地域、つまり多様なバックグランドを持った人が出会い暮らす地域には、寛容さが求められます。
リチャード・フロリダというアメリカの学者は、経済成長率が高いのは、ゲイやレズビアンが多い町だと言っています。セクシャルマイノリティが住みやすい寛容さのある町は、よそ者に優しい地域なので、アイデアにつながる出会いが生まれやすいというわけです。
都市として、人口が増えるほどアイデアが生み出されていくという図式が成立するのは、エリア人口が50万以上の地域ではないかというのが私の仮説です。
日本のあちこちに元気な中規模都市があることは、リスク分散にもなります。元気な中規模都市をいかに多く維持できるか。東京から地方中規模都市への人の移動、それによってもたらされる出会い――それをどれだけ生み出せるかが今後の日本経済を決めると考えられます。
*本記事は2017年6月7日掲載記事の再掲載です。
文/小島和子 写真/小島和子(講座写真)、(C)naka、(C)o1559kip / fotolia