損失感は利益感よりも強い
人は必ずしも合理的な行動を取るとは限らない。この前提に立ち、心理学や脳科学の知見を取り入れて、「自滅のメカニズム」を読み解き、経済活動に生かそうとするのが “行動経済学” だ。
行動経済学は、このように私たちが経済的な意志決定をする場合に、間違った選択をしないように導いてくれる学問ともいえる。関西学院大学経営戦略研究科ファイナンス連続セミナーで、行動経済学の第一人者・池田新介先生(大阪大学社会経済研究所教授)は私たちが不合理な行動を取る理由の一つを示してくれた。それが
「損失感は利益感よりも強いため、損失を忌避しようとして不合理な行動をとる」
ということ。
株でもFX(Foreign exchange 外国為替保証金取引)でも、およそ投資と名のつくものはすべて損切りのタイミングをとらえることが大切だが、この損切りを先延ばしする傾向を多くの人が持っている。
具体的には、値下がり株をなかなか売却することができず、逆に、値上がり傾向にある株を早く売りがちなのだ。思い当たるフシがある人は多いだろう。
また、悪い情報(見たくないもの)は見て見ぬふりをする「ダチョウ効果」も、行動経済学ではよく使われる言葉だ。
脳の報酬や感情に反応する部分が判断を狂わせる
このように一見矛盾した行動をとってしまうのには、脳の2つの処理システムが関係しているという。ひとつは報酬や感情に反応するシステム1(大脳辺縁系)、もうひとつが高度な認知判断にかかわるシステム2(前頭葉・頭頂葉)だ。このうちシステム1が錯覚を起こしやすく、感情的印象を優先してしまうという。
しかしこれらの直観的・反射的・情動的なシステム1こそが生存本能や遺伝子継承に重要な部分を担っているというのだから、人間である以上は、生涯この不合理と付き合っていかなければならない。そして、こうした人間の行動特性を理解することは、自分が失敗や後悔をしないためだけでなく、さまざまなマーケットでの販売宣伝戦略にも役立つのである。
そこに、行動経済学を学問として学ぶ大きな意義がある。
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取材・文/まなナビ編集室