出生数と死亡数のグラフが怖い
「少子高齢化」に対する対策が日本の喫緊の課題であることは確かだが、私たちはいささかこの問題に疲れてきている。
東京都の小池都知事は待機児童解消を政治課題の一つに掲げ、保育所を整備することで定員枠を過去最大の16,003人増大したが、利用申し込みも急増し、昨年度の待機児童数は前年より773人減少したものの8,586人の待機児童を抱えることとなった。
ユーキャン主催の新語・流行語大賞で「保育園落ちた日本死ね」がトップ10に選ばれたのは2016年のこと。それから1年以上経ち、行政がこれだけ努力しても、まだまだ問題は解決には程遠い。
合わせて、高齢者が急増しているので当然ながら死亡率は上がる。2016年に日本の全人口が33万786人減ったのは、この相乗効果(出生数減少と死亡数増加)によるものだ。
日本以外でもこの課題は大きな問題となっており、それを示すのが「平成29年 我が国の人口動態」(厚生労働省)のグラフだ。
人口が減ると何が起こる?
日本経済大学教授の安井裕司先生は、早稲田大学エクステンションセンター八丁堀校の「国際時事問題入門」で「人口が減少に転じる出生率は2.08。それ以下だと人口が減る」という。
「人口が減り続けると国内市場が縮小し、企業が海外に流出するため国内の仕事も減ってきます。少子高齢化で人口の少ない若者に税の負担が重くのしかかり、世代間の格差は広がる一方になります。仕事がなく税の負担が重いので、子供を持つ余裕もないという、夢のない悪循環に陥ってしまいます」(安田先生)
出生率を上げることが根本解決になるのは確かなのだが、それが上がらない陰には、「少子化問題=女性の課題」という社会的偏見が存在すると、安井先生は指摘する。
出生率2.01を実現したフランスの政策とは
「真剣に少子化対策を考えるならば、フランスのように出生率2.0超えを目指さなくてはなりません。フランスは1994年には出生率が1.68でしたが、国をあげて対策をとり、2006年には2.01を達成しました」と安井先生。その対策とは次のようなものだった。
・出産期女性の高い労働力(80%)と出生率
・第2子以降、20歳まで家族手当を給付(所得制限なし)
・子供が3歳になるまで育児休暇か時短労働可
・第2子以降の育児休暇手当は3歳まで受給可
・ベビーシッター利用に補助金
・同棲・婚外子の社会的認知
「ただし、フランスがここまでやっても、じつは人口増ではなく、現状維持であることも忘れてはいけません」と安井先生は警告する。
フランスが34.3%に対して、日本は12.5%
「女性の就労が進み、夫の家事・育児参加率が高い国や地域ほど、少子化が改善される傾向にあります。ですから、少子化対策としては第一に女性の社会進出の推進。それとセットで重要なのが男性の育児参加です」(安井先生)
1週間当たりの労働時間が50時間を超える労働者の割合は、フランスが5.7%に対して、日本は28.1%と先進国のなかでもダントツに高い。
また、男性の家事・育児時間の割合はフランスが34.3%に対して、日本は12.5%。
女性も家事育児をしながら社会に出る一方、男性も仕事を続けながら育児家事が選択できる、そういう社会環境が求められているのだ。
◆取材講座:「国際時事問題入門」(早稲田大学エクステンションセンター八丁堀校)
文/まなナビ編集室 写真/(c) Ekaterina Pokrovsky/fotolia