新型うつ病は「自己実現型うつ」
前回の記事「上司を攻撃、過食・過眠傾向なら新型うつ病の可能性も」では、従来のうつ病と新型うつ病の違いについて記した。では、新型うつ病を生む原因はどこにあるのだろうか。
それを理解するキーワードのひとつが「自己実現型うつ」だという。
「自己実現」とは、こうありたい自分ということだ。多くの社会人ではその理想像が「仕事しながら成長していく自分」であることが多いが、新型うつ病をわずらっている人は仕事がいやでいやでたまらない。だから「こんな仕事をやらされている自分は理想の自分ではない」と考えるのだという。
だから下の図のように「(嫌なことを我慢してやっている自分は)いやだ!」「(こんな自分らしくない自分は)いやだ~!」となり、職場を憎んだり上司を攻撃したりするのである。
杉山先生は語る。
「新型うつ病の人は、『理想的な自分』と『理想的ではない現実の自分』とのギャップにいら立っているのです。私はこれを《仕事に恋ができない病》だととらえています」
名経営者はよく「仕事に恋をしなさい」と言う。そうできれば言うことはないが、それができないからつらいのだ。そうなるように自分の心身をもっていくにはどうしたらよいのだろうか。
どうしたら仕事に恋ができる?
「仕事って時に楽しくないですよね。なぜなら好きなことが仕事になるとは限らないからです。必要とされるものでなければ仕事にならないのです。たとえば音楽が好きでバンド活動なら毎日でも続けられるという人が、音楽を仕事にしようと思ったら、その音楽をみんなが必要としてくれないといけない。でも、それはなかなか難しいですよね。ですから、好きなことが仕事になっている人は少ないんです。
でも人生には仕事が付き物です。仕事に恋することが人生を快適に生きることにつながることは間違いない。なら、どうすればそういうふうに思考できるか、考えたほうがいいでしょう。
そこで参考になるのが、アメリカの心理学者、カール・ロジャースが掲げた精神的に健康な人間の条件です。彼は、どんなところにも喜びや面白さを見出すことができる人間の条件として、以下の5つを挙げています。
(1)あらゆる体験に対して心を開くこと。
(2)あらゆる瞬間を充実して生きる力を持つこと。
(3)他人の意志より自分自身の本能にしたがう意志を持つこと。
(4)思考と行動における自由、たとえば自発性と柔軟性があること。
(5)非常に創造的であること。
この中でとくに(1)と(5)が大切なんです。あらゆる体験に心を開いて、創造的であること。これができるようになれば、どんなところにでも喜びや面白さを見出し、愛せるようになるのです。それが人格の成熟ということです」(杉山先生)
次回は、とくに40代から必要になってくる、「人格の成熟」に必要な要件について解説する。
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すぎやま・たかし 神奈川大学人間科学部教授、心理学者
1970年山口県生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。医療や障害児教育、犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究に取り組んでいる。臨床心理士、1級キャリア・コンサルティング技能士。『ウルトラ不倫学』『「どうせうまくいかない」が「なんだかうまくいきそう」に変わる本』等著書多数。
◆取材講座:メンタルヘルス・マネジメント講座「大人の人間関係論 part2」(神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター/KUポートスクエア)
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