英語の勉強をいくらしてもTOEICのスコアが伸びない……
記者は英語の専門学校に通っていたことや、英語の書籍の編集をしていたことがある。しかしTOEICのスコアは695点と高くない。ビジネス用語を中心に語彙力が低く文法が苦手なため、スコアが伸びないのだ。映画や音楽、会話といった実践に近い勉強法が好きなためリスニングが得意で、リーディングとは150点ほど差がある。
しかしこうしたやんわり英語力を上げる程度の勉強では、これ以上のTOEICのスコアアップは望めないようだ。実際に635点から始まった筆者のTOEICスコアは、4回目に695点になっただけ。
TOEIC受験用の講座に行ったこともあるが、あまりに膨大な宿題と詰め込み式の授業に嫌気が差してしまった。結局、大量の問題をひたすら解くには、このような詰め込みを行わなければいけないのか。
語学の楽しみは、テストの点数を取るためではなく、実際に人と交流したときの達成感にある。ささやかなことでも通じる喜び、理解できた高揚感があるから、もっとやりたいと思うのだ。
そういう考えが根底にある上、フリーランスなので別段TOEICのスコアをどこからも求められない。TOEICの勉強に身が入らない理由だ。それでも受験を続けていたのは、周囲に900点越えがぞろぞろいるからだ。なんとなく「800点くらい取らないと恥ずかしい」ような気になっている。
「過去問をひたすら解くしかないか」と思っていた矢先……
その後「試験勉強は過去問を解くのが最も効果的だ」と心理学の本で読んだ。
知り合いの韓国人は、過去問集を数冊買って勉強し、TOEIC900点越えをしたそうだ。ゆるゆる過去問をやるだけなら、自分にもできるかもしれない。単語カードでひたすら単語を詰め込むよりも、実践した方が頭に入りやすい。
「過去問をひたすら解いて900点越えを狙おう」と考えていた矢先、TOEIC講座の取材依頼が来た。上智大学公開学習センター主催の「TOEIC® Preparation Class-基礎から学ぶTOEIC 初級~中級」(全13回)だ。
正直言って、あまり期待していなかった。「過去問を解くのが最も効率がいい」と信じていたからだ。しかし講座が始まってすぐ、その考えは一変した。
パート3を解くコツは、たった2つだけ!一つ目は──
講座が始まるとまず、講師の浦口理麻先生(上智大学非常勤講師)より前回習った用語からミニテストが出題される。このチョイスが絶妙なのだ。
“natural wear and tear”(自然消耗)や、“reimbursement of expenses”(費用の弁済)など、聞き取れる単語はあるけれど意味がわからないものばかりが24問。講座ではきちんとネイティブの音源を聴かせてくれるので、リスニングの勉強にもなる。
そしてここからが、この講座の真骨頂だ。受講した日の内容は、パート3の解き方。パート3はリスニングで、数名の会話問題文を聞き、続いて読み上げられる設問(これは問題用紙にも書いてある)3つに答えるというもの。ここの解き方のコツはたった2つだ。
ひとつめは「様々なテキストにも書いてあることですが」と先生は前置きしたが、それは「問題を解く前に設問を読む」ことだという。
ここで浦口先生は、それがどれだけ大事かを実践させてくれた。TOEICで実際に使われている問題をすべて日本語で読み上げ、それを解くのだ。日本語での会話を聞き、日本語で読み上げられた設問に日本語で解く。完璧に理解できているはずの日本語ですら、あらかじめ設問を読まずに記憶だけで問題を解こうとすると、満点が取れなかった。情報が多すぎて覚えきれないのだ。
しかし「この会話はどこでなされたか」「明日の朝の予定は」「何が問題視されているか」など、予め出題される内容がわかっていれば、覚えておくべき情報がグッと少なくなる。もちろん日本語なら満点だ。これが英語ならどれだけ差が出るだろうか。
実際には、問題文の前には必ず「次の音源を聴いて問題に答えなさい」といった共通文が読み上げられるので、その時間や、前の問題の設問が読み上げられている間に次の設問に目を通しておけばいいという。
パート3を解くコツ、二つ目は──
二つめは「問題を聴きながら解く」だ。会話を聴きながら選択肢に目を通して解答を見つけてしまう方法だ。
パート3では、問題で読み上げられた単語がそのまま選択肢として使われることが多いという。“for the hotel lobby” と読み上げられたら、選択肢に “in a hotel” があるといった具合だ。
そのまま選択肢になっていなくても、簡単な言い換えであることも多いという。よく出題されるのは「予約する」の “book” と “reserve” などだ。
同じ単語や簡単な言い換えは、パート3全体の6〜7割を占めるという。
ただし聴きながら解くのにはある程度の語学力が必要で、先生曰く「点数が低いうちは同時進行は難しいかもしれません。けれども明らかに聴きながら解く方が効率がいい上、高得点の受験者はやっている方が多いようです。700点レベルの人はぜひトライして欲しい」とのことだ。
いざ実践、その効果を充分すぎるほどに実感!
こうした情報を元に、過去問集を使ってパート3全部を解いてみる。全部で13題(各3問なので解答は39問)、17分間の模擬試験だ。
冒頭の定型文が読み上げられているうちに、設問を読んでしまう。すると問題文が読み上げられている最中に、正解の選択肢が目に飛び込んでくる。問題文が読み終わる頃には、3問とも解答できており、設問が読み上げられている頃には次の設問を読む余裕があった。
実際、解答は8題目までほぼパーフェクト。間違えたのは2択で迷った箇所とページめくりに手間取った部分だけだ。ただし、後半になるに従い、同じ単語が選択肢に上る比率が減り、時間に余裕がなくなっていった。
TOEICは、各パートごとに易しい問題から徐々に難易度が高くなる。先生によると、後半は言い換えが多くなり、聴きながら解くのが難しくなるという。その上、図を見て解答する問題も加わり、ここも前もって目を通しておかないと解けない問題が多い。記者は最後の3題はほぼ全滅だった。
先生は「聴いてすぐに内容が難しそうだと感じたら、集中して聴く方法に切り替えるといいかもしれません」と言う。記者のレベルだと、聴きながら解けたのは7題目くらいまでだ。
TOEICの勉強は、とにかく効率重視がいい
浦口先生曰く「この講座は、英語の楽しさや実践力を教えるのとは対極にあるんです」と悩ましそうだ。
しかしTOEICに限っては、そのスコアがビジネス上の語学力評価になる以上、実際の語学力に見合うスコアである必要はない。実力を差し置いて「いかに高スコアを取るか」が重要なのだ。それには、効率的に得点する方法を学び、効率的に勉強するのが最も望ましいのではないか。
実は記者は、TOEICの勉強をしようと思い、公式問題集を買ったまま数週間放置していたのだが、講座から帰ってすぐにでも問題を解いてみたくなった。教えられたことが、すぐに実践できそうな気になるのもポイントだ。
この講座の魅力は、膨大なTOEICの問題の傾向を分析し、数値化してあることだ。しかも解き方のコツ、目の付け所はパート3で言えば2つだけ。即座に実践できる数だ。
「教えるべきこと」「自分でできること」が明確になっているので、内容に無駄がない。これらを一緒くたに教えられると、受講者は講座で覚えることが多すぎて混乱するし、やる気もそがれてしまう。
しかし出題頻度の低いものはコツとして覚える必要はないはず。こうした取捨選択ができることは、情報が整理されている証拠だ。学問とは、ものごとを分類したり、名前をつけたりすることだろう。この講座はまさに「TOEIC学」といえそうだ。
解き方のコツさえ覚えたら、加えて過去問で応用力をつければいい。ただ過去問を解くよりも、目の付け所を押さえて解く方が圧倒的に効率がいい。
講座で解き方のコツを学び、過去問で実践力をつける。これが記者が考える、現在最も効率的なTOEIC勉強法だ。
次の開催は4月だという。待ちきれない。
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◆取材講座:「TOEIC®Preparation Class-基礎から学ぶTOEIC 初級~中級」(上智大学公開学習センター)
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文・写真/和久井香菜子・fotolia/artmim